美術科 日本画コースDepartment of Fine Arts Japanese Painting

[優秀賞]
金澤一世|あなたを思い出した
宮城県出身
三瀬夏之介ゼミ
2440×7500 木製パネル、岩絵具、水干、アクリル絵具、箔

私は、人という存在に「強い」や「弱い」という状態が明確にあるのかを思考している。強者や弱者という言葉を耳にするため、それらはおそらくあるのだろう。出会った人々は私に悩みを打ち明けてくれたが、各々は決して弱くはなく弱者でもない。人は常に「強い」「弱い」が階層として内にあると思う。画面上には各悩みが集積してあるが、全くネガティブな作品ではない。私はこの作品から「強弱」で語れない多様な人を感じて欲しい。



三瀬夏之介 教授 評
ある人に対する正義がある人にとっての悪となり、ある人に対する救いがある人にとっての暴力となる。私たちがそのような世界を生き出してから久しい。金澤はとても優しい人間だ。そのような彼がこのような反転した世界に簡単に馴染めるとは思えない。彼は卒制に取り掛かる頃から様々な悩みを抱える人々が駆け込むスペースに学生ボランティアとして関わるようになった。そこでの実経験において肉声として届けられた無数の言葉たちが、金澤にこの絵を描かせた。画面上では正義のヒーローと悪の象徴が対峙しているように見えるが、そのどちらもが自身の傷を隠そうとしない。強さもなく、弱さもない、嘘の二項対立を見破ってもう引き裂かれることのない絵空事のような世界を描く。いや、この絵は現在世界の鏡なのかもしれない。