文化財保存修復学科Department of Conservation for Cultural Property

三津間悠雅|彫刻文化財修復素材の一考察?水練りした際のニレ粉とタブ粉を用いた水温変化による比較研究?
福島県出身
柿田喜則ゼミ

 彫刻文化財の修復素材に使用されるニレ粉とタブ粉というものを研究しました。ニレとはニレ科ニレ属広葉樹であり、春に花が咲くハルニレと秋に花が咲くアキニレがあり古くは食用や糊などに使用されています。また、ニレと同様の素材であるタブがあります。タブとはクスノキ科タブノキ属の常緑広葉樹であり、木の樹皮や葉を粉にしてお香や線香の基材?つなぎとして利用されています。ニレ粉とタブ粉とは、それぞれの木の樹皮を粉砕して粉にしたものをいいます。ニレ粉は、古くは奈良時代の乾漆仏などを造仏する際に使用した素材で、粉を水と漆で混ぜ合わせることによりできる塑形材として利用され、近年修復素材としても利用されています。粉は水を混ぜると纏まりを持つという特性があり、ヘラで扱った際にモチモチした感触や弾力があることが特徴的です。そられは水練りをする際に水よりも湯を用いると早く纏まると知られていますが、実際に水温変化によって纏まりやすさに差が生まれるのか疑問を抱き、事前実験を行いました。その結果、馴染むまでに約3分30秒も差がつくだけでなく、弾力強度にも差が見られるました。
 そこで本研究では、ニレ粉とタブ粉を水練りした際に纏まり易い水の適正温度があるのか、水温変化による弾力強度の違いについて探ります。
 本実験の温度表記は摂氏温度とし、実験する水温は、100度から0度までの間で5度毎とし、温湿度、表面温度、混ぜる回数、分量と水分量を定め、その定めた環境下で実験を行い、結果は記録用紙に水温、纏まりやすさ、弾力強度の項目に分けて記録します。
 実験結果では、タブ粉の特徴として75度から50度までは一定で45度から変化がつきまた一定になるといった水温が高い方から低い方へ徐々に変化が一定に下がっていきました。ニレ粉の特徴としてタブ粉と違い水温変化が80度の時点で変化が弱くなっており20度までは変化が一定でそれ以降低い温度で強い変化が現れました。
 今回の本実験においてニレ粉とタブ粉では、水温変化ごとに多少の違いはあるものの水温が高いと弾力強度が高まるということ、ニレ粉とタブ粉を用いた水練りに使用する水は、弾力強度と纏まりやすさを考察した際の結論として、100度から0度の水温の中では、100度から80度ということがわかりました。今後の課題としては、それぞれの季節に応じた環境に配慮する、修理を想定した手板に用い実作業を想定した実験が必要と考えました。