文化財保存修復学科Department of Conservation for Cultural Property

中島みちる|革装丁に対するギルディングの古典技法と現代技法の比較研究
埼玉県出身
中右恵理子ゼミ

 ギルディングとは、様々な素材に金属箔を施す装飾技法である。主に絵画や額縁、革装丁、アンティーク家具などの装飾に用いられた。
革装丁の古典的なギルディングに使用する接着剤が「卵白」であることに対し、現代のギルディングでは、「Fixor(フィクサー)」(写真1)という接着剤やポリエステルフィルムに真空蒸着技術を施した「真空蒸着箔」(写真2)など、工業製品が主流となっており、技法材料の近代化?簡便化により古典的な技法が失われつつある。
 本研究では、接着剤の変更による古典技法と現代技法の比較実験を行い、各接着剤の含有成分やpH測定、接着剤乾燥後の金箔の固着度合い、強制劣化試験などを通して、それぞれの技法の相違点やメリット?デメリットを踏まえ、革に対するギルディングの技法的変遷の要因を考察し、革装丁のギルディング箇所の保存?修復を考える上で一助となることを目的とする。
 今回、実験用のサンプルを作成するにあたり、最も古くから使用されている卵白、近年主に使用されている接着剤であるFixor、接着剤と箔が一体化した新しい素材である真空蒸着箔の3種類の材料を用いてギルディングを施した。その後、作成したサンプルに対して、恒温槽を用いて100度の高温度環境と90%(40度)の高湿度環境を作り、1週間~4週間安置する強制劣化試験や、強制劣化試験後のサンプルに対して摩擦実験を実施し、金箔や革の表面観察や物理的に耐久度を比較することで、どの接着剤が長期的に安定した素材なのか考察した。また、実際にサンプル作成を通して感じた作業時のメリット?デメリットを比較し、技法的変遷の考察も行った。
 高温度強制劣化試験の結果は、卵白とFixorでギルディングを施した金箔の表面には大きな変化はなかったが、真空蒸着箔の表面には1週間目の段階で地割れのような小さなひび割れが箔全体に現れていた(写真3)。高湿度強制劣化試験の結果は、金箔の表面に新たな亀裂や縮れなどの変化を確認することはできなかった。摩擦実験では、3種類の中で最も剥離がみられたものは、真空蒸着箔だったが、同じ素材を用いたサンプルでも、高温度実験を経た真空蒸着箔は剥がれ方が弱かった。
 結果から、真空蒸着箔は利便性の観点では優れているが、物理耐性が低く、長期間の保存に向かないことがわかった。対して、卵白?Fixorを用いたギルディングは比較的、物理耐性が高く長期間の保存に耐えうる安定した素材であると考える。

1.Fixor

2.真空蒸着箔

3.高温度環境下に1週間曝した真空蒸着箔