文化財保存修復学科Department of Conservation for Cultural Property

長澤仁奈|赤色系の下地が金の発色に及ぼす効果について~手板作製と金継ぎ修理を通じて~
福島県出身
柿田喜則ゼミ

 美術品や工芸品などには、古くから金による加飾技法を見ることができ、そのいくつかには、金の効果を高めるための工夫が確認されています。
その一つがベンガラや朱といった、赤色系を金の下地に用いて金表面の発色効果を高めるものだ。例えば、海外においては中世ヨーロッパに発展した黄金背景テンペラ画というものが知られている一方、私たちの暮らしに身近なものでは金継ぎが挙げられます。金継ぎとは、欠いた器や割れた器を補修し金や銀で加飾を施すことで、器に新たな価値を見出す日本の伝統技法です。
 文献調査の結果、このように赤色系の下地に金を重ねる理由には、「金の発色効果をより高める」ことや「金に温かみを付与する」ことを目的としていることが判明しました。しかし、実際に発色効果がどのように表れ、他色と比較した際にどのような違いが見られるのかを検証した研究を確認することはできていません。そこで本研究では、特に漆における赤色系下地に着目し、6種類の色漆との比較によって金の発色効果に及ぼす影響を観察?考察することを目的とします。
 研究は色漆と金粉を使用する技法を用いて、手板作製と金継ぎ修理の2つの実験を行い、色差計での計測と目視観察の結果から評価します。(図1)
作製した手板は、それぞれ表面の色を色差計で計測し、彩度、明度ごとにグラフを作成しました。(図2)その結果、下地にベンガラと朱を置いたものは、金の表面に赤味が高く出ていることが判明しました。また、目視観察においても金が赤みを帯びており、温かい発色であるという印象を受けました。(図3)
金継ぎには、黒猪口を2つと白い絵皿1枚の計3つを使用しました。金の下地に用いる色漆は、色の比較がしやすいベンガラと呂色としました。修理後、黒猪口2つを比較した結果、ベンガラを塗布した黒猪口は赤みが強く銅のような発色なのに対し、呂色漆を塗布した黒猪口は黄色味が強い発色であると感じました。
 以上、色差計と目視観察の結果から赤色系の下地は、金に対して明度と彩度を付加する特徴があり、下地に用いることで「金の発色を高める」ことを確認できました。この結果が今後、金継ぎ修理などにおいて、作家や修復家が求める金の発色を演出するために、より適した色漆を選択するための一つの指標となると考えます。

1.手板作製の様子

2.金表面の赤みの数値をまとめたグラフ

3.下地:左から呂色?ベンガラ?本朱