文化財保存修復学科Department of Conservation for Cultural Property

笹館郁乃|キャピラリーウォッシング ー浄円寺襖絵修復作業への西洋クリーニング技術の応用ー
山形県出身
杉山恵助ゼミ

2022年の5月から、東北芸術工科大学文化財保存修復研究センターにおいて、山形県米沢市浄円寺所蔵の襖絵8枚の修復作業にインターンシップとして参加している。襖絵は線香の煙による煤の汚れや、虫糞、付着物などで表面がかなり変色しており、今後もお寺の堂内に収められることを考えると、保存と鑑賞の観点から、積極的なウエットクリーニングが必要であるとの修復方針が定められた。その結果、西洋の技法であるキャピラリーウォッシングを応用した方法が採用された。しかしながら、この洗浄技法が日本の装潢文化財の修復に取り入れられたという記録や報告書は自身が調査を行った中では見つけることができなかった。キャピラリーウォッシングに日本の装潢文化財の修復で使用される道具、素材などを取り入れた場合、どのようにすれば、安全で効率良く、作品に悪影響を与えずに処置を行うことができるのか。そして、実際に行われたキャピラリーウォッシングは果たして装潢文化財の洗浄方法として適しているのかという疑問が浮かんだ。本研究では、襖絵の修復作業の記録を取り、作業を通して気づいた疑問等について実験?考察することを目的とした。実験では、襖のクリーニングに参加する中で抱いた疑問を考察するために、サンプルで洗浄工程を再現し、目視での観察や実験結果から得られた数値から検討した。繊維方向による汚れの落ちやすさの比較実験から、本紙とパラプリントの繊維方向は両方とも縦の組み合わせが短時間で汚れが洗浄できることがわかった。洗浄方法の違いによる汚れの動きを観察した実験では、それぞれの特徴を捉えることができた。そして、キャピラリーウォッシングにはやはりパラプリントが適していることを、実験を通して再確認できた。修復作業を通して、キャピラリーウォッシングが適応できるか否かの決定は、本紙の絵画層の状態を見て判断する必要があるとわかった。プラスチックの板の上で作業することが前提となるため、貼り込みができる作品である必要がある。また、今回の実験で得られたデータは活用できる可能性があると感じた。そのため、今後は古文書などで実験し、より実際の修復に近い状態を再現しながら、実用性の方向に向けて研究を深めていきたい。

1.キャピラリーウォッシングの解説図

2.実際に行われた襖絵の洗浄

3.実験の様子