文化財保存修復学科Department of Conservation for Cultural Property

大場みゆ|卵テンペラ絵具におけるメディウムとしての卵の性質についての研究
宮城県出身
中右恵理子ゼミ

 本研究は、卵テンペラ絵具に用いられる卵のメディウムとしての性質に着目して行った。1年次の演習で卵テンペラに初めて触れた時に、食品をメディウムに用いている点に興味を持ち、卵テンペラについての文献調査を行う中で、 チェンニーノ?チェンニーニの『絵画術の書』の内容に目が止まった。チェンニーニは 鶏の卵黄の色について、田舎の鶏が赤みのある色で、街 の鶏が白っぽいと述べており、メディウムとして混ぜる卵黄の色味の違いを利用して人物の肌の色を使い分けていた。 さらに、他の文献においても卵テンペラ絵具のメディウムに鶏卵を用いることが前提のように書かれていた。以上のことから、本研究で は鶏卵以外の他の家禽の卵を用いることで、卵テンペラ絵具は成り立つのかを検証した。
 文献調査ではヨーロッパで飼育されている家禽や卵の組成を調査した。 卵テンペラ絵具のメディウムの仕組みも調査し、脂質の含有量が流動性に影響すると推測したことで、さらに脂質が固着力にも反映すると予想した。文献調査と3年次の個人研究をもとにして、色合いと固着力、流動性の3つを対象に比較実験を行った。本実験で使用した卵は鶏卵、紅花を餌にした鶏卵 、ホロホロチョウ、アヒルの4種類である。使用顔料はウルトラマリンブルー、鉛白、さらにチェンニーニの文献を参考に 、肌色を若者の肌の色、老人の肌の色の2種類用意し、計4種類の顔料を用いた。実験の結果、まず色合いは、通常の鶏卵 が全体的に明るい印象を持ち、紅花を餌にした鶏卵 は特に鉛白から赤みの強さが現れた。若者と老人の肌色への影響は、今回の実験からは卵黄の色の違いよりも混色する顔料の違いがより影響した。 固着力は、全ての卵テンペラ絵具に共通して鉛白の剥離が最も大きく、 ウルトラマリンブルーは、全ての卵テンペラ絵具で剥離が最も少なかった。本実験では、卵の種類よりも顔料の種類による差が大きい結果となった。最後に流動性は、脂質を多く含む卵に流動性が低く、粘りが強かった。本研究の結果、卵黄の色味は単一色の顔料には影響を与えることがうかがえた。固着力は今回の場合、卵の種類や組成よりも、支持体や顔料の相性によると考えられる。

1.3年次の個人研究の結果

2.使用した卵の卵黄

3.色合いと固着力の比較