文化財保存修復学科Department of Conservation for Cultural Property

大場愛美|紙に付着した血液の除去について
山形県出身
杉山恵助ゼミ

 日本に史料として多く現存している紙は、経年劣化による折れや欠失の他に雨漏りや虫害等の外的要因による損傷を受ける。その他にも修理報告書などは見受けられなかったが、取り扱い中の事故によって紙の表面に血液が付着してしまう事があると考える。
 取り扱い中に事故が起こってしまった場合には専門の修復技術者に委託することが確実である。しかし、経済的理由や近くに修復技術者がいない等の理由によって素人である施設スタッフや所有者が作業を行うことが想定される。3年時に会津若松市にある白虎隊記念館へ訪問した際に館長の早川氏へ聞き取り調査を行った。この聞き取り調査から、白虎隊記念館以外にも経済的理由や近くに修復専門家がいない等の理由から修復依頼が出来ていない施設があると考えた。
 現代、様々な生活サイトでは血液が付着した際でも特定の薬剤や製品を用いることで付着直後の除去は大方可能とされている。しかし、血液が付着してから時間が経過した場合の除去が可能であるのか、現在除去できると言われている溶液を使用した際に起こる紙への負担などの影響については明らかになっていない。このことを基に本研究ではサンプル試料の血液除去実験を行い、除去によって起こる紙への負担を最小限に抑えた除去法を検討した。本研究は血液が付着してしまった場合に修復技術者以外が応急処置を行う際の情報源となることを目指すため、身近で手に入れやすいものを使用することとした。
 実験では付着前と同等の状態にすることが出来ないという結果が得られた。全ての実験において付着直後でも滲みや黄ばみの残留があるという結果になった。その中でも大根おろしの絞り汁が一番除去に適しているという結果が得られた。大根は自然由来のものである為、文化財修復の大前提である可逆性も含まれていると考える。
 実験全体としては乾燥後に起こるサンプル試料の波うちが目立った。しかし、本研究では時間が足りず波うちの解決策を検討することが出来なかった。今回は主観的な評価のみになってしまったため、走査電子顕微鏡下での観察など客観的なデータの収集が必要である。今後解決策の検討も含め、更なる紙への負担を最小限に抑えた除去法を検討していきたいと考える。

1.血液除去実験の様子

2.乾燥後のサンプル試料