文化財保存修復学科Department of Conservation for Cultural Property

吉澤実優|ヒメマルカツオブシムシの色判別能力の有無及び色選好性の確認
栃木県出身
佐々木淑美ゼミ 

 世界的に毛織物などを食害している文化財害虫のヒメマルカツオブシムシに対して、2種類の円形多色画用紙(11色土台、花模型土台)上における行動や最多選択色を観察し、予算不足に悩むことの多い文化財収蔵施設で比較的低コストでの活用が可能だと思われる色彩トラップ作製に向け、色判別能力と色選好性を考察した。実験は暗所内に置いたプラスチックケース内で、それぞれ2種類の強度(強、弱)の明るさのランプ下で行った。土台は、2種類用意した。1つは、均等に11色(白、撫子、煤竹、濃紅葉、柿、銀杏、若草、鶯、山葵、藍鼠、紅藤)の画用紙を円形に並べた11色土台である。もう1つは、円形の若草色画用紙上に2色(白、柿)の小さな花模型を配置し、その中央に更に小さな銀杏色画用紙を置き、それにはちみつ水を含ませた花模型土台である。なお、11色土台は白色と紅藤色の配置が逆であればより正確な結果であったと思われる。
 成虫の11色実験では、緑系、青系、白色の範囲に多く偏って滞在したため、餌であるマーガレットなどの白色の花に関係する、花の白色、葉や茎の色、花を目指す参考目標である青空の色、が選好色ではないかと考察できる結果を示した。ただし、花の中央の色に似た銀杏の色への滞在は少なかった。一方で、産卵場所に多い動物の毛皮に似た色である茶系の色への滞在は少ない結果となった。ここから、他の文化財害虫においても同様に、餌に関連する色と対応した選好色となることが推察できる。成虫の花模型実験では2色に偏りは見られなかった。しかし、今回は実験個体数が不十分であった。11色実験の結果から、偏りは確認できる可能性がある。幼虫は11色、花模型、両方の実験で偏りは見られなかった。本研究では、成虫の花模型実験を除く全ての実験で3個体ずつを使用した。より多くの個体数使用や、実験方法の変化、実際の発生場所での挙動観察などで、色彩トラップ作製へ利用可能なヒメマルカツオブシムシの色覚に対する総合的な結果が出せると予想する。