文化財保存修復学科Department of Conservation for Cultural Property

三上愛理|油絵の暗所での黄変と明所での戻りについて-乾燥促進作用に着目した油絵具の使用-
山形県出身
中右恵理子ゼミ

 油絵は光を遮断した暗所空間では黄変を引き起こすが、その後、明るい空間に設置することによってその黄変は元に戻り、制作時の色味へと戻る現象がある。これらの現象には、油絵具の展色材に用いられる乾性油が関係している。乾性油の代表例としては亜麻仁油、けし油が存在をするが、けし油よりも不飽和結合が多い亜麻仁油は乾燥が速く、黄変度が高くなるという性質を持っている。そして、油の酸化重合を促す鉛?コバルト?マンガンといった無機顔料は油絵具の乾燥促進剤としても用いられている反面、これらの過度な使用は黄変を引き起こす。以上から、乾燥の速さと黄変度の高さには関連性があると推測し、本研究では、顔料に含有する金属に焦点を置き、顔料の主成分の違いによる黄変度の差について調査することを目的とした。
  まず、本実験では、乾燥の速い絵具と遅い絵具の分類を行った。乾燥が速い顔料の基準としては、乾燥促進剤の主要な役割である鉛?コバルト?マンガンの金属を含有しているか、または、鉄やクロームといった金属酸化物を含む顔料であるかで判断をした。この結果、シルバーホワイト、コバルトブルー、インミンブルー、プルシャンブルーの4種類の顔料を用いた。そして、乾燥が遅い顔料に関しては、乾燥作用を有していないと明記されているジンクホワイト、チタニウムホワイト、ウルトラマリンブルーの3種類を選定した。
  実験の結果、暗所にてウルトラマリンブルー以外の6種類にて黄変が確認できた。中でも、シルバーホワイト、チタニウムホワイト、コバルトブルーの黄変度が高い結果となった。乾燥が遅い顔料に分類していたチタニウムホワイトはコバルトブルーに次ぐ、非常に大きな黄変を引き起こしていた。これにはチタンの油の保持能力の低さや吸油量が関係していると考える。また、黄変後の色の戻りについては、乾性油自体の性質に加え、酸化チタンの光触媒が影響したと考察する。実験結果全体を通し、乾燥促進剤として用いられる鉛、コバルトを含んだシルバーホワイト、コバルトブルーの黄変度の高さが顕著であったことからも、乾燥の速さと黄変度の高さには少なからず関連性があると考える。