文化財保存修復学科Department of Conservation for Cultural Property

高杉友子|異なる媒染剤を用いて染色した布の紫外線劣化に関する研究
青森県出身
佐々木淑美ゼミ

 染色布とは染料によって着色された布のことを指し、例えば着物、衣服、絨毯やカーテンなど、さまざまなものが挙げられる。本研究で検討対象とする天然染料で布を染めるには、媒染剤が重要である。媒染剤とは、繊維と染料を結びつける役割を持っている。媒染剤を用いて染色しなくても染めることはできるが、媒染剤を用いることできれいに発色したり、水洗いしても色が落ちにくくなったりする。特に天然染料では、染料が繊維に固着しにくく、色落ちするため、綺麗に発色させるために媒染剤は必須である。
 染色布の劣化には、退色や変色、脆弱化があるが、劣化要因として、温湿度や光の他に、繊維の素材や、染料、媒染剤そのものが持っている内的要因なども挙げられる。この中でも特に。紫外線が1番の劣化要因だと考えられている。そこで本研究では、媒染剤の種類とタイミング、染料との組み合わせを変えると、紫外線による劣化にどのような影響が生じるのかを明らかにする目的で、実験を行うこととした。実験では、絹、麻、綿を、コチニール、蘇芳、五倍子で、媒染剤として鉄、アルミ、銅のそれぞれ3種類を先媒染、後媒染にわけて用いて染色したサンプルを作製し、それらを用いて研究を進めた。
 実験の結果、コチニールの場合(A12-1,2)、鉄媒染、銅媒染ともに先媒染の方が変色が大きかった。アルミ媒染では絹のみ後媒染の方が変色が大きかったが、綿、麻は先媒染の方が変色が大きかった。蘇芳の場合、アルミ媒染、鉄媒染、銅媒染すべて先媒染の方が変色が大きかった。五倍子の場合、アルミ媒染では先媒染の方が変色が大きく、鉄媒染では綿、絹の後媒染の方が変色が大きく、麻は先媒染の方が変色が大きかった。銅媒染では綿、麻の後媒染の方が変色が大きく、絹は先媒染の方が変色が大きかった。
 研究結果として、媒染剤と、媒染のタイミングが異なることによって、染色される布の色合いや変退色の度合いが変わること、使用する染料でもかなり結果に差が出ることがわかった。ただし、染料と媒染剤の組み合わせの違いによる劣化の度合いは、布や染料による違いが大きかったため一概にどの媒染剤で染めたものが劣化しやすいとは言えなかった。

1.実験前のコチニールの染色布

2.紫外線劣化実験後のコチニールの染色布