文化財保存修復学科Department of Conservation for Cultural Property

佐藤さくら|白鷹町塩田行屋大師堂における屋外に近い環境での害虫防除
山形県出身
宮本晶朗ゼミ

 塩田行屋は山形県白鷹町に山中に位置している。建物としては本堂と大師堂が残っており、地域住民が共同で管理を行なっている。このうちの大師堂は、明治時代後期に建てられたものと考えられており、様々な文化財が安置されている。周囲は草木に囲まれており、日光が当たりにくく、年間を通して高湿度になりやすい。併せて、大師堂は老朽化による隙間が多くあり、害虫が侵入しやすい環境となっている。特に、堂内ではカマドウマが大量発生し、糞による汚損がみられた。カマドウマはバッタの仲間で、地域によっては便所コオロギと呼ばれている。糞の付着は文化財の変色やカビの原因となる。今後も堂内で文化財を管理するためには、カマドウマの被害を減らす必要がある。本研究では、カマドウマの侵入経路を特定し、対策を実施する。堂内に発生したカマドウマを減らすことで、文化財の安置環境の改善を目的とする。
 堂内の隙間を調査した結果、27箇所の隙間や穴がみつかった。特に扉周辺にある5つの隙間は、外と直接繋がっていたため侵入経路の可能性が最も高いと考えた。この5箇所の隙間以外は、どこに繋がっているのか不明なため、侵入経路であるかの判断はできなかった。しかし、カマドウマが出入りする様子が見られた場所もあり、侵入経路の可能性は高いと考える。防除対策として、調査でみつかった隙間を埋める作業を行った。本来はすべての隙間や穴を塞ぐことが理想的だが、時間の都合上難しい。そのため、侵入経路の可能性が高い扉周辺の5箇所の隙間に対して、対策を実施した。扉の隙間を塞いだ際のカマドウマの増減を調べるために、殺虫剤を用いて一旦カマドウマを駆除した後、木材や隙間テープを用いて隙間を埋めた。7月~11月まで毎月調査を行い、増減を比較した。8?9月はカマドウマの数に大きな変化はなかったが、10月からは体長1cmほどの小さなカマドウマが増え始め、11月下旬にはさらに増加していた。駆除前に多くいた体長2.5cmのカマドウマは見られなくなったが、殺虫や季節の違いによって減った可能性もあるため、隙間対策による効果かは不明である。1cmほどのカマドウマは、5mm以下の隙間でも入り込むことができるため、扉の塞ぎきれなかった隙間や、堂内の他の隙間から侵入したのではないかと考えた。今回の研究では、カマドウマの侵入を完全に防ぐことはできなかったが、主要な隙間を塞ぐことができたため、一定の効果があると推測する。

1.堂内のカマドウマ

2.壁に張り付くカマドウマ

3.木材を用いての隙間対策