文化財保存修復学科Department of Conservation for Cultural Property

磯田桜花|ガラス絵の耐光性についての研究
群馬県出身
中右恵理子ゼミ

 本研究では文献調査と浜松市美術館での現地調査をもとに、通常の油彩画とガラス絵を比較し、ガラス絵の耐光性について検証することを目的とする。ガラス絵は透明で平滑なガラス板に油絵具などで描き、ガラス側から鑑賞する絵画のことを指す。ガラス絵が盛んに描かれた時期は、18世紀から19世紀末頃になり、この時期は世界的にもガラス板の製造普及した時代と重なっている。また、ガラス絵の絵柄に関しては地域によっても異なる。西洋では主に宗教画、日本では世俗的、風景など様々である。研究の一環として、浜松市美術館で計6点の作品を調査させていただける機会を得た。目視で調査し結果、剥離剥落は確認できたが本研究につながる変褪色は確認できなかった。しかし、100年ほど前のガラス絵にも関わらず、非常に絵具層の色味が鮮やかであった。そこで、ガラス絵の変褪色について着目した。まず、ガラス絵は前面にガラスがあることから「絵具層が褪色しづらい」と考えられる。これは、文献でも現地の調査でも確認できている。
 本実験では、ガラスはどの程度絵具を保護する効果があるのか検証するため、通常の油彩画とガラス絵を模した試料を作成し、紫外線を照射して比較実験を行った。試料の作成は、3mm厚と6mm厚のガラス絵を模した試料、油彩画を模した試料、油彩画を額に入れた試料の4種類と絵具は耐光性の低いバーミリオン、プルシャンブルー、耐光性の高いイエローオーカー、シルバーホワイトの4色を使用した。それら試料を90日間暗室で紫外線を照射した。実験の評価方法は、実験前後に目視観察、写真撮影記録、色差計による数値化の3種類で行い比較した。
 ガラス絵を模した2試料は油彩画を模した2試料と比較して変褪色の傾向は低い結果であった。絵具層が露出している油彩画を模した試料は、全体的に絵具層が不鮮明な色味であった。それとは逆にガラスを模した試料は、非常に絵具層の色は鮮明であった。しかし、イエローオーカー全試料に関しては、結果が異なり、実験前より実験後の方が暗色化する結果になった。また、ガラス絵が鮮明な色味を保てたのは、支持体であるガラスは光の遮断効果や平滑なガラスと絵具が密着していることに関係があると推察できる。そしてガラス板がもたらす光の反射吸収作用も関係していると考えられる。