文化財保存修復学科Department of Conservation for Cultural Property

石川太陽|紙の厚さ?小麦澱粉糊の濃度?剥離角度が紙に与える影響について
栃木県出身
佐々木淑美ゼミ

 掛軸などの作品は、和紙と和紙を接着させた構造をしている。接着剤に障子の張り替えなどで使用する小麦澱粉糊を使用し、刷毛で接着させる。これらの和紙や接着剤、接着方法は何百年も前から伝わってきた材料や技法である。古くから伝わってきた故、これらを利用してきた客観的な理由が確認できていないことがある。そこで、先行研究では、これらの特徴にどのような意味合いや利点があるのかが試験等から検討されてきた。その試験の1つに、接着した和紙同士を剥がすことで、どのように接着しているかを調査するはく離試験がある。試験を行う際には、様々な規則があるが、和紙の厚さや剥がす角度には注目されていなかった。そこで、和紙の厚さと剥がす角度が、はく離させる際に、紙にどのような影響を及ぼすのかを明らかにすることを本研究の目的とした。どのように剥がれたかを知るためには、剥がした和紙の表面を確認する必要がある。そこで、紙に残る糊の量と残り方から剥がれ方を確認することとし、ヨウ素溶液を使用した。今回使用する接着剤は小麦澱粉糊であり、澱粉が含まれる。ヨウ素は澱粉と反応して色が変化する。また、望ましい剥がれ方は、剥がした和紙の両側に糊が均一に残っている状態であると考えた。試料は掛軸の1層目を想定して、水を塗布した表側の和紙に、糊を塗布した裏側の和紙を貼り合わせ、撫ぜ刷毛で撫ぜることで接着させた。接着剤に新糊、和紙に薄美濃紙を使用した。和紙は厚さの違う3種類を使用し、約90度のT形はく離試験と180度はく離試験を実施した。糊は1%、3%、5%の濃度のものを用意した。
 結果、和紙の厚さは薄い場合、糊の濃度は低い場合、剥がす角度はT形の場合に、剥がれ方が均一の傾向を示した。この結果について、表側への糊の浸透の違いによるものではないかと考えた。糊は濃度が高いほど粘り気があり、濃度が低いと、ほとんど水と粘り気が変わらない。そのため、濃度が高いほど表側への浸透が不均一になり、部位ごとの接着具合が違ったことで剥がれ方も不均一になったことが考えられる。また、和紙は厚さがあるほど内部に隙間を持つ。隙間が多いほど内部に含む糊や水の量は多くなる。このことから、和紙が厚い試料では、剥がした和紙の表面でヨウ素溶液の反応が濃い部分と薄い部分が混在する結果、つまり剥がれ方が不均一になったと考えらえる。