文化財保存修復学科Department of Conservation for Cultural Property

荒井美咲|漆塗膜における金箔の紫外線遮蔽効果
宮城県出身
宮本晶朗ゼミ

 漆はウルシの樹から採取できる樹液で古くから接着剤や塗料として使用されている。漆は耐水性、耐熱性、耐酸性に優れているが、紫外線には弱い。そのため、日光に長期間晒されると最初に漆の明度が上がり鮮やかになった後、白く曇るチョーキング現象が起きることが知られている。漆の技法の中には箔を接着する漆箔技法がある。金箔には装飾だけでなく、紫外線を遮る効果があることが指摘されている。北野信彦氏は、漆箔の手板試料と漆塗りの手板試料に暴露実験を行い、結果として漆箔の手板試料のほうが耐候性に優れており、金箔に紫外線を遮る機能があると考察している。また、矢口一夫氏が手掛けた金閣寺の修復では、現在製造されている金箔より5倍の厚みがある金箔が使用されている。これは、金箔の紫外線遮蔽に着目し紫外線の透過実験を行ったところ、完全に反射したのが5倍の厚みだったためである。しかし、紫外線の遮蔽について触れた研究が少ない。そのため、本研究では金箔が紫外線を遮蔽し漆の劣化を防ぐのか実験し、くわえて厚みによって紫外線を遮蔽する効果に差があるのか評価を行った。
 劣化の基準はチョーキング現象とし、その評価を目視観察、マイクロスコープ、色差計で行った。漆の劣化状況を観察するにあたって、漆と金箔に分けてサンプルを作製した。サンプルはアクリル板に黒呂色漆を塗布した物が7枚に対して、カバーグラスとカバーグラスに金箔を1~5枚に接着したサンプルをそれぞれ漆に乗せた状態で上から紫外線ランプで紫外線を照射した。紫外線ランプの条件は波長が352nm、設置距離は約10cmで、期間は48日間、計1,152時間紫外線を照射した。くわえて、紫外線照射実験の他、金箔が光をどの程度透過しているのか、金箔の枚数に比例して光の遮蔽に効果があるのかを確認した。方法は箱の蓋に穴をあけ、穴の上に金箔を置き、上から光を当てる。箱の下に照度計を設置し透過した光を計測した。
 実験の結果から、短期間だと金箔が1枚でも漆の劣化の進行を遅らせることがわかったが、金箔の枚数による遮蔽効果の差に関してはわからなかった。しかし、金箔にライトを当てて透過した光を照度計で計測したところ1枚から4枚までの数値に差があったため、枚数による遮蔽効果に差がでると考えられる。長期間紫外線の照射を継続し、実験を行うことを今後の課題とする。

1.10月31日 劣化前

2.11月29日 劣化後_金箔1枚

3.マイクロスコープ画像_金箔2枚