文化財保存修復学科Department of Conservation for Cultural Property

阿部純白|民俗資料の収蔵環境に関する調査~山形市郷土資料収蔵所を例として~
北海道出身
佐々木淑美ゼミ

 博物館や美術館における保存環境は、温湿度や光、空気質などといった様々な因子への対策によって適切に調整される。なかでも虫害対策、特に IPMの重要性は、広く知られるようになった。対象物と保管環境が違えば虫害やその対策方法は異なり、博物館や美術館の運営状況によっても講じることができる対策は異なる。つまり、どの博物館でも画一的な虫害対策が行えるというわけではない。また、収蔵品の種類によっても対策は異なる。例えば、民俗資料は木や布、紙、金属等といった様々な素材からできている。素材ごとに適した保存環境が異なるうえに、木や紙、布等は、虫による食害にあいやすい。
そこで、本研究では、山形市郷土資料収蔵所(以下、収蔵所)を対象として調査を行い、収蔵所の現状に則した虫害対策と環境改善策を提案することを目的とした。そして、収蔵所に保管されている郷土資料の未来を見据え、今後、保存していくにあたって参考となる保存環境と収蔵品の状態に関するデータを得ること、類似した環境で郷土資料を保管している事例の参考となる基礎的研究となることも目指した。
 調査対象である収蔵所には、山形の郷土資料、例えば鍬や臼、囲炉裏などといった生活道具等が多く収蔵?保管そして展示されている。それら1点1点の状態調査を行うとともに、昆虫トラップと温湿度計データロガーを使用した保存環境調査を、 2022 年10 月から 2023 年10 月までの 1 年間行った。
 調査結果として、玄関の隙間から虫が多く侵入していることを確認したが、文化財害虫とされる虫は少なかった。また、建物内の温湿度は最低限の保管環境が保たれているが、局所的に湿度が高い場所があることがわかった。
 調査結果に基づきIPMの5段階コントロールの観点から、大きな収蔵物を動かした大掛かりな清掃をすること、玄関の扉の隙間を改善すること、そして、年に一度のトラップ調査を行い、虫の侵入経路と種類、数を把握することを提案したい。また、収蔵品の素材に応じた展示?保管場所の選択は難しいと考えるが、湿度や虫害に注意が必要な素材でできた収蔵品についてのみ、定期的な点検を実施し状態把握することを提案したい。