美術科 彫刻コースDepartment of Fine Arts Sculpture

[最優秀賞]
山本満里奈|ヰ
高知県出身


山本桂輔 講師 評
卓越した造形力によって作られた本作品は、その形態から抽象彫刻と見る事ができるが、山本さんの彫刻には妙な捉えどころのなさがある。
彼女は、丸太との丁寧な対話の中で作り上げていった彫刻を大胆に切断し、パーツをスライドさせる。それは、マイブリッジの連続写真やキュビスムの再構成、ルービックキューブや知恵の輪といったパズルを連想させる。完全に違うイメージに転化させるのでなく、木という素材そのものの特性を残しつつ、違う何かにゆっくりと変体している途中のように見える。
作品タイトルである「ヰ」と「ゐ」だが、共に「い」と発音が似ている事で、時代の中で埋もれていった文字である。彼女は、文字の形と彫刻の形が似ているという理由でそれを選んでいる。ここにも、意味やらしさを抜き取ろうとする狙いが見て取れる。それにより、ゲシュタルト崩壊のような感覚を呼び起こす効果を獲得しているであろう。いわゆる抽象彫刻という枠に収まらないユニークさの秘密が、この即物的な距離感にあるといえる。
自分の気配を弱めることで、彼女は自由を手に入れ、にんまりと新しい一手を導き出していくのだ。