映像学科Department of Film and Media

[優秀賞]
中里有希|季節のない愛
山形県出身
中村高寛ゼミ
映画

早くに結婚して夢を諦めたノゾミと、恋人のモラルハラスメントに耐えかねて自殺未遂をしたヨリコ。ヨリコが療養のために実家に帰ってきたのをきっかけに、かつて親友同士であったノゾミとヨリコは再会する。会話を重ねるうちに、ふたりは果たせなかった約束を思い出す。「いつか授業を抜け出して一緒に遠いところに行こう」という高校時代の約束を果たすため、ノゾミとヨリコは今の日常を抜け出して緑の深い山に登る。ふたりは頂上にあるという、鳴らせば幸福になれる鐘を目指して歩き続ける……。


中村高寛 非常勤講師 評
「自殺未遂をした」と高校時代の友人から電話がかかってきたことが、本作を作るキッカケだったという。それを「私と私の友人の叶わなかった未来」の投影として、30代の女性二人を主人公に映画化した。まだ20代の監督が作っているとは思えないほど、その描写は生々しくもリアリティに満ちている。これまでも一貫して「女性性」が持つ儚さと美しさを独自の視点で見つめてきたが、本作でそれが結実したのだろう。
まさに恐るべき才能である。が、実は中里有希が最も優れているのは、「聞く力」だと、私は思う。スタッフ=他者と多く関わることになる映画制作において、自分の考えが相容れないときに、どう対応し判断するのか?ここが勝負の分かれ目となる。しかし言うは易しで、誰しもなかなかうまくできないもの。それゆえに「聞く力」は、映画監督にとって最も必要な資質ともいえる。
中里監督は、本作において信頼できる仲間とともに、極私的な映画作りを模索してきた。そして自身が抱える内的なテーマを、「聞く力」をもって普遍的な人間ドラマへと変貌させていったのだ。
ゆえに『季節のない愛』は、驚くべき純度の高い映画になったのである。
本作に至るまでの苦闘をみてきた。それを知っているだけに、エンドロールが流れたときに、ちょっと涙腺が緩んだよ。ありきたりな言葉だが、よく頑張った。そしてこれからの活躍を楽しみにしています。