文化財保存修復学科Department of Conservation for Cultural Property

仁賀優大|剥落止めに使用される接着剤の比較 ?装潢文化財修復での応用を見据えて?
愛知県出身
杉山恵助ゼミ

 掛軸や屏風、巻子などの装潢文化財修理において、剥落止めと呼ばれる彩色修理がある。作品形態特有の構造と性質に応じて、用いる接着剤の種類や濃度、浸透性などの調整が必要とされる。
 本研究では、剥落止めに使用される接着剤について、膠を中心に、塗膜の柔軟性に着目し、文献調査と実験によって、種類および濃度による比較を行なうことを目的とした。
 文献調査の一部として、修理報告書調査を実施した。平成11年度から皇冠体育官网2年度までの「東京国立博物館文化財修理報告1?22」のうち、絵画分野304件、書跡分野118件の作品を対象に、作品形態や使用接着剤の種類、濃度などを調査し、修復事例における剥落止めに対し、統計的な把握を試みた。結果、巻く形態における兎膠の使用率は、巻かない形態のそれに比べて高い傾向や、巻く形態において、低濃度の膠の使用率が高い傾向が読み取れた。また、牛膠系は主に濃度1%?4%の範囲で、使用濃度に偏りがないのに対し、兎膠は濃度1%?2%の範囲での使用が半数近くを占める、という結果が得られた。
 実験は、乾燥比較実験と剛軟度測定実験を実施した。乾燥比較実験では、接着剤を一定量、シート状に乾燥させることで、塗膜の柔軟性および視覚的性質の違いを、より純粋に比較しようと試みた(A14-1)。兎膠と牛皮膠と粒膠を使用し、それぞれの乾燥状態を比較した結果、ゴムのような兎膠に対しプラスチックのような牛膠系の質感の違いを確認した(A14-2)。剛軟度測定実験では、JIS規格「織物及び編物の生地試験方法」に規定される、剛軟度:スライド法試験を参考に、接着剤を紙に塗布した際の柔軟性の比較を試みた(A14-3)。結果、作成した試料の均一性や、選択した紙素材の適性に懸念があるものの、牛膠と粒膠が兎膠より高い剛軟度数値を示し、「兎膠が牛膠系に比べて柔軟性がある」という文献情報との一致が推察されるデータを得た。
 本研究では、修理報告書調査にて、調査した規模の範囲からみえる、修理現場における剥落止めの調整に関する実態と傾向を把握できた。また、乾燥比較実験にて、膠の種別に塗膜の状態比較を行うことで、質感の差異を認識し、文献情報と照合し、物性の理解へとつながった。剛軟度測定実験では、選択した素材の適性や、より均一なサンプル作成に課題が残る結果となり、信頼性の高いデータをもって考察を導くには難しく、今後の改善を要する結果となった。

1. プラスチック型を使用した乾燥固化実験

2. シート状に乾燥させた膠

3. スライド型試験機による剛軟度測定