大学院Graduate School

[優秀賞]
茂木祥宏|高校生のデザインへの理解の深化を促す授業の実践的研究
埼玉県出身
吉田卓哉ゼミ

 本研究は高校生のデザインへの理解の深化を促す美術の授業の実践的研究である。
高等学校で行われる教科芸術(美術)の授業において,高校生がデザインを学ぶ際,地域と連携した探究的な学習を行うことで,デザインへの理解がどの程度深まったかを明らかにすることを目的とする。
 本研究ではまず,デザインという言葉,デザインという存在を捉え直し,定義する。次に,日本の初等中等教育における図工?美術の中でのデザインの扱いについて調査を行い,その在り方について検討する。その後,高校生のデザインへの理解の深まり具合について検討し,理解が浅い状態と理解が深まった状態を定義する。
 これらを踏まえた上で,高等学校で行われる教科芸術(美術)の授業で行われるデザインの学習題材を考案し,実践を行う。(図1及び図2)授業実践前と授業実践後には,生徒のデザインに対する理解度を調査するアンケートを行う。実践終了後,アンケート調査の分析を行い,実践題材の教育的効果と生徒のデザインへの理解の変容の具合,要因について考察した。
 本研究において取り組んだ授業実践の中で,表現題材に関して,授業実践後のアンケート調査の結果,全体の約54%以上の生徒に対して「視覚的要素や自己表現こそがデザインである」という狭義的な意味合いでしかデザインを捉えていない状態から,「課題発見から解決までの総合的な活動そのものがデザインである」等の広義的な意味合いでもデザインを捉えることができている状態に変容している様子が見受けられ,生徒のデザインへの理解の深まりが確認できた。 しかし同時に,授業実践終了後も「デザインにおいて最も重要な要素は自己表現である」と認識する生徒も一定数存在している状況が確認された。
 授業実践終了後の考察として,現代の高等学校の美術の授業におけるデザインの題材に関しては,「何が問題なのか」を探究する時間と「デザイン領域の目的」に向けて探究する時間を両輪とすることが重要であり(図3),題材開発の必要性があることと,生徒が課題を自分事として捉えることが重要であり,生徒が主体となって社会と関わる学習形態を取り入れた題材設定が必要であることについて考察した。


芸術文化専攻長 青山ひろゆき 評
 芸術(美術)教科が人間形成における多様な成長の機会を包括する機会として機能し得ることを示す、極高度な実践研究である。特に注目すべきは、別冊資料が示す多様な教育場面への応用可能性であり、これが本研究の普遍性と柔軟性を裏付けている。
 デザイン教育という枠組みを、広範な視野で再定義する姿勢は、未来志向的な教育として高く評価できる。特に、地域社会との連携を重要な要素として取り入れ、教室内の活動に閉じることなく、実社会と展開するプロジェクトへと昇華されている。このプロセスは、高校生にとって単なるデザインスキルの習得にとどまらず、コミュニケーション能力や問題解決能力といった、将来にわたり有用な資質?能力の育成に寄与すると云える。
 また、生徒自身がクライアントを検討し、取材を重ね、最終的な完成に至るまでのプロセスを主体的に担うという挑戦的なアプローチは魅力だ。失敗を伴うリスクを孕みながらも、それ以上に生徒の主体性と創造性を育む貴重な学びの場となっている。加えて、こうした自由度の高い学びを支えるために、事前の綿密な指導が丁寧に行われている点も見逃せない。指導者の役割は、単なる知識の伝達者から、学びの「伴走者」へと進化している。
 生成AIが生み出す無限のイメージの中で、人間が本当に育むべきは、与えられた枠の中で完璧を目指す力ではなく、未知の課題に対して自ら問いを立て、解決に向けて歩み続ける力である。この研究は、まさにそのような「創造的思考の種」を生徒たちの中に蒔く教育実践であり、芸術教育の未来に向けた重要な示唆を与えてくれる素晴らしい研究であった。

1. 題材に取り組む生徒の様子

2. 生徒作品例(一部)

3. デザインの題材の在り方のイメージ図