彫刻家として活躍する外丸治(とまる?おさむ)さんは大学院を修了後、石材店での勤務経験を経て、地元?群馬県玉村町に帰郷。大工として働きながらものづくりを続けてきました。現在は山形市長谷堂の古民家に移住し、自ら家屋を改修しながら創作活動を行っています。その古民家での暮らしぶりはメディアでも取り上げられ、生き方そのものが注目されている外丸さんにものづくりに対する思い、そして山形という地で得た学びについてお聞きしました。
? ? ?
作品のことも、自分のことも裏切らない
――はじめに、外丸さんのお仕事について教えてください
外丸:メインは工芸ですね。主に暮らしの中で愛でたり使えたりするような器やカトラリーなどをつくっていて、その合間に彫刻作品を手掛けています。
――ご自身の中で軸となっているテーマや素材などありますか?
外丸:自然素材のみで形をつくる、ということですかね。普段は山形にいるので、できれば地元の素材ということで木だったら県産材とか、漆は彫刻?工芸問わずよく使うのでなるべく山形県産のものを使うとか。漆掻きのお手伝いにも行くんですけど、実は日本の漆の自給率って5%しかないんです。ほとんどが中国産とかで。でもせっかく自分の手で彫るなら責任持って良いものにしたいので、素材にはこだわってますね。彫刻作品についても、塗料は全部天然の岩絵具、顔料を使っています。
――依頼を受けてものづくりすることも多いですか?
外丸:例えばギャラリーで展示会をしている時に、お客さんと話をする中で「こういうものをつくってほしい」と言われることもありますし、SNSを見て連絡をくださる方もいます。特にカトラリー系は料理人の方からオーダーをいただくことがありますね。あとは小物や、動物の面といった彫刻作品に対してのオーダーもよくいただきます。もちろん、受注ではなく自らつくることも多いですし、普段から彫刻と工芸とをそんなに区別せず、どちらも面白くやっています。
――お仕事する上で、いつも大切にしていることは?
外丸:ごまかさないことですね。作品に対しても、自分の思いに対しても。楽しようとすればいくらでも楽できると思うんですよ。例えば海外産の漆のように材料を安く簡単に手に入るものにしてしまうとか。実際、そういうものを使っても分からないのかもしれないけど、でもそれって人に説明できないじゃないですか。やっぱり嘘はつきたくないんですよね。良いものっていろんな人の良心が集まってようやくできるものだと思っているので、そこは自分も含めて裏切りたくないな、って。絶対自分より自分がつくったものの方が長生きするので、堂々と語れるものをつくって残していきたいといつも考えています。
――彫刻を仕事にしよう、というのはいつ頃から考えていましたか?
外丸:小学校高学年ぐらいから職人というものに憧れがあって、よく体験教室みたいなものに行ったりしてたんですね。そこから「職人って格好良いな」って思いが出てきて。手を動かすこともずっと好きだったので、自然と“好き”の流れで来ましたね。この仕事で食べていきたいと考えるようになったのは大学を卒業してからかな。一度、宮城の石屋に就職したんですけど、「やっぱり常に自分で考えて、自分の感性でものづくりしていきたい」っていう思いが明確になったので、退職して群馬の実家に戻りました。そこから10年は、彫刻コースで学んだいろんな自然素材の知識を活かしながらリフォーム大工をしていました。またその間ものづくりも両立していて、徐々に比重を大工から彫刻と工芸の方に置いていったという感じですね。
――そこから山形で作家活動することになった経緯は?
外丸:ものづくりをやっていく上で「もうちょっと刺激を受けながら良いものをつくりたい」ってなった時に、群馬は確かに自分が育った場所だけど、ここじゃないなって思ったんですね。一方、山形には展示会などで毎年必ず行っていたんですけど、その度、良いところだなって。そう思うのは何でだろう?って考えると、山が近かったり食材が豊かだったり、あと四季がはっきりしているんですよね。自分としては動物的な感覚をすごく大事にしたかったので、自然が近いところで野生的な感覚を育てるならやっぱり山形だなと思って、そこから物件を探し始めました。
大学生の時に住んでいた芸工大近くのアパートが古民家で、古い家は居心地が良いっていうのがその時の経験としてあったので、古民家に住むことも最初から決めていて。そして3年かけて40軒以上の物件を見る中で出会ったのが、今の山形市長谷堂の古民家でした。2020年から住んでいますが、地域の方々にも良くしてもらっていますし、現在も自分の手で家屋を修繕、改修しながら日々の生活を楽しんでいます。またものづくりをする上でも相性が良い家だと感じていて、集中力も出ますし、木が持っている力を最大限に活かした古民家の中で、木を使って作品がつくれるというのは面白いですね。
山が教えてくれた、人と自然との関わり
――芸工大の彫刻コースで学ぼうと思ったきっかけは?
外丸:感性を磨くんだったら自然豊かな場所で学ぶのが絶対だろう、と思っていました。山形には行ったことなかったんですけど、何か東北に惹かれるものがあって。でもその頃は“地方から都会に行くのが正解”っていうのがすごく強くて、“地方から地方へ”っていうのが予備校の先生とか同級生には特に理解されませんでしたね。「なんで行くの?意味が分からない」って。芸工大もまだあまり知られていませんでしたし。でも自分としては、「この人たち何、言ってんだろ」って思ってました(笑)。親も「良いんじゃない?合ってるんじゃない?」と言ってくれてました。彫刻コースにしたのは、もともと木を削ったりするのが好きで、絵よりも立体の方に興味があったので選びました。
――今も仕事に活きる印象深い授業や思い出などありますか?
外丸:学生時代は民俗学の授業が好きでしたね。赤坂憲雄(あかさか?のりお)先生※1の東北学とか面白かったです。風土とか歴史といった民俗的なことに興味があったので、手仕事から生まれる文化的背景みたいなところを知ることができて、すごく今につながってる気がします。
あと、コンテンポラリーダンスの森繁哉(もり?しげや)先生※2からも大きな影響を受けました。身体表現の授業なのにみんなで外に出て、近くの田んぼに行ったり、農家さんにその土地のことを語ってもらったり、古い建物の中を見せてもらったり。そこで人が自然とどう関わって生きてきたかが分かったというか。山形って、山から生まれてくる幸を上手に活かしてきたその接点が今も暮らしの中に見えるし、自然の中で人も媒介して生きていくその循環がまだ感じられる土地だと思うんですよね。
※1:民俗学者。2010年度まで本学大学院長。現在、学習院大学で教鞭を執る。
※2:民俗学者、現代舞踏家。2007年度まで東北文化研究センター教授。
それから大学では、夕暮れ時になると仲間と朝日連峰に沈む夕日を見ながらよく語り合っていました。あと「山、登るか」って言って突発的に西蔵王に行ったり、蔵王で釣りをしたり、山菜採りをしたり。そういう自然の中での遊びがすごく楽しかったですし、それが身近にあることが本当に新鮮でした。
――これから挑戦してみたいことがあれば教えてください
外丸:この古民家で毎年1回は展示会をやってるんですけど、今度はこの家のキッチンを舞台に、食に関するイベントをやってみたいなと考えています。山形に住んでみて、良いなと思ったことの一つに、食にまつわるものの豊かさがあって。食材の良さはもちろんですが、クリエイティブな農家さんとか料理人さんが多いんですよね。自分も器をつくっていますし、そういうことを一緒にできたら素敵だなと。
それからここに移住してきて気付いたのが、古民家って人を呼んでくれるというか、みんなわざわざここに来てくれるんですよ。普通の家だったら絶対なかったようなことが起きたりするし、若い後輩たちが訪ねてきてくれたりするのもすごい嬉しくて。だから他の古民家ももっと見直されると良いなと思っています。古民家物件を探していた時、不動産屋さんにもいろいろ当たったんですけど、みんな嫌な顔をするんですよ。「地震が起きたらどうするんですか?」とか「古民家に住むのはやめた方が…」って。
でも、知らない人ほど否定的で、分からないからこそ心配してそう言ってくれるんですね。それに対して古民家再生協会の方が、木は300年かけて強くなっていくという話を教えてくれて、「この家、まだまだじゃん!」って(笑)。ここに住んでから震度5強とかの地震もあったりしたんですけど、物が全然落ちなくて、その免震構造のすごさにも驚かされました。
――それでは最後に、受験生へ向けてメッセージをお願いします
外丸:自分が都会暮らしに合わないことは中学生の頃から気付いていたんですが、そこで「都会の波に揉まれて頑張らなきゃダメだ」っていう一般論的なものに合わせなくて良かったなって、改めて思っています。山形の大学に行くって言った時に周りに反対されて、その後、群馬に戻ってまた山形の古民家に移住するって言った時も反対されて。そういうことがあると「間違ってんのかな?俺…」って、ちょっとなびきそうになるじゃないですか。でもやっぱり自分の違和感には敏感であってほしいんですよね。もしその思いがすごく少数派だったとしても、まずは気楽に構えて飛び込んでみるのがいいんじゃないかな。だって、やってみないとどうなるかなんて分からないんですから。
? ? ?
高校生の頃、新聞のちょっとした欄に載っている地方のワークショップに参加しては、その土地に暮らす人たちのものづくりの息遣いを感じていたという外丸さん。「普通の人とはちょっと違うタイプの高校生だったかもしれないけど、それが良かったのかな。そこでいろんな人の価値観に触れられたから―」。そんなふうにいろんな人やもの、経験と出会う機会を積極的に求めてきたからこそ、少数派かもしれない自分の価値観にもしっかり目を向けることができたのかもしれません。今後この古民家からどんな作品やイベントが生み出されていくのか、とても楽しみです。
(撮影:渡辺 然、佐藤鈴華 取材:渡辺志織、入試課?須貝)
東北芸術工科大学 広報担当
TEL:023-627-2246(内線 2246)
E-mail:public@aga.tuad.ac.jp
RECOMMEND
-
2021.04.22|インタビュー
子どもから大人までチャレンジに溢れる町で、誰もが幸せを育める教育環境づくり/認定NPO法人カタリバ?卒業生 佐藤緑
#コミュニティデザイン#卒業生 -
2023.03.03|インタビュー
自分が挑戦してみたい展示の企画を、一から考え作っていける面白さ/花巻市博物館?卒業生 髙橋静歩
#卒業生#歴史遺産 -
2024.04.01|インタビュー
教科書通りじゃない歴史の魅力を、地域の子どもたちにつないでいく/棚倉町教育委員会 学芸員 卒業生 塚野聡史
#卒業生#歴史遺産