
文芸学科卒業生の大友玲奈(おおとも?れな)さんは、紙の本を手がける出版社で編集者として勤務したのち、ステップアップを求めて電子コミックレーベル?U-NEXT Comicの編集部に転職しました。学生時代の就職活動から現在のお仕事まで、文芸学科での経験は大きな支えになっていると言います。作家さんと二人三脚で作品を生み出している大友さんに、マンガ編集者として働く楽しさや芸工大で学んだことをお聞きしました。
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電子コミックという、新たなフィールドへのチャレンジ
――大友さんが担当されているのは、マンガのなかでも“電子コミック”とよばれる作品の編集です。電子コミックの編集者のお仕事では、どのようなことをされているのでしょうか?
大友:私が今、担当している業務は、主に作家さんへの依頼から作品の企画、そして配信日の施策についてなど、作品を総合的にプロデュースするところまで含みます。入社から半年経っていないので、私が手がけた作品はまだ配信されていないのですが、今はそれに向けて全力疾走している毎日です。
具体的には、まず素敵な作品を描いてくれそうな作家さんを見つけて、その方の作風に合ったネタ(=作品の内容)を考えます。たとえばラブストーリーが得意な作家さんであれば、恋愛もので新しいネタを……といった具合ですね。
そこから、編集部内のネタ会議で作家さんと一緒に考えたネタを提案します。ネタ会議というのは、自分の提案したネタに対して編集部のみなさんからいろいろな角度で意見をいただいて、きちんとした“企画”に整えるための会議です。この会議を通して、ネタが“企画書”のかたちにまとまります。
そして、できた企画書を基に進行の判断を仰ぐための企画会議でプレゼンをします。プレゼンが通ったらやっと作家さんに制作をお願いすることとなり、そこからマンガが生み出されるんです。
来年、再来年のスケジュールまでどんどん決めていく必要があるので、常に先々のことまで考えて動く必要があります。

――編集者のお仕事をするうえで、大友さんが大切にしていることを教えてください
大友:私が仕事で特に大切にしていることは、3つあります。 まずは、作品を生み出してくださっている作家さんと信頼関係を築くこと。どんな仕事でもそうですが、相手へのリスペクトを忘れてはいけない、と思っています。
それと同時に、私自身が「面白い」と思うことを信じるのも大切にしています。作家さんをサポートしながら作品を作るポジションとして、編集者である私自身の軸がブレてしまってはいけないので。
そして一番大事にしているのは、“無理をしない”ことです。自分が体調を崩す前兆はわかるので、「これ以上無理に頑張ったら、熱を出してしまうな」と思うときはそこで切り上げています。徹夜なんかも、かえってパフォーマンスが落ちるので……。“仕事”と“自分の限界”のバランスに気を付けて、一定の睡眠時間をきちんととっています。
―― “編集者”と聞くと、従来は「無理をしてでも頑張る」というイメージがあったと思うのですが、最近はそういった風潮も変わってきているのでしょうか
大友:そうですね。私はU-NEXT入社前、とある出版社で紙の本の編集者をやっていたのですが、その出版社も無理をして働くような社風ではありませんでした。ただ、まだまだ会社によるとは思います。今働いているU-NEXTや前職のような、“自分を大切にしながら一生懸命頑張る”方針の会社もあれば、従来の“編集者は大変”というイメージ通りの会社もあるのは事実です。
私が学生時代に、就活を兼ねてアルバイトをしていた別の出版社は、心を病んでしまいかねない労働環境でした。一応、その出版社からも内定をいただいていたのですが「社会人になってからもここで働くのは、さすがに大変だ……」と思って、入社を辞退させていただきました……。
とはいえ、今はもうそんな会社ばかりではないので、かつてのイメージにとらわれてしまうのはもったいないかな、と思います。編集者の仕事に興味があるのであれば、自分の「やってみたい」を信じて、どんどんチャレンジしていただきたいですね。実際に、私は社会人になってから、編集者として楽しく充実した毎日を送っているので!

――紙の本を手がける出版社から、電子コミックを扱うU-NEXT Comicさんに転職された理由を教えてください
大友:前職で、マンガの編集にひと通り携わらせていただいたうえで「さらにステップアップしてみたい!」という気持ちがあったからです。 そんな折、U-NEXT Comicのマンガ編集事業長と編集長のインタビュー記事 をWebで拝見して、「面白そう!」と思ったので応募させていただきました。
私自身、U-NEXTはアニメやドラマを観るユーザーでもありましたし、映像コンテンツの配信をメインで行っている会社がマンガを手がける、というところに魅力を感じたんです。その強みがあるので、従来の紙の出版にはなかった、新しいチャレンジもできるんじゃないかな? と思いました。
実際に、U-NEXT Comic『五十嵐夫妻は偽装他人』がドラマ化され、そのドラマがU-NEXTで独占先行配信されたり、ドラマ『ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!』のコミカライズがU-NEXT Comicから配信されたりしています。そういった映像コンテンツとマンガのコラボレーションに、今後自分も携わることができたら面白そうだと思います。
そして、電子コミックは「世に出したら、それで終わり」ではないんです。配信が始まってからもバナー広告を出すなどして、より多くのユーザーに作品を読んでもらうための戦略を考えていく必要があります。そういった、“いかにユーザーに届けるか”の観点にも興味があったので、U-NEXT Comicの編集部に入りました。

編集?制作にのめり込んで、実務を楽しく学んだ学生時代
――大友さんは、在学中に文芸誌『文芸ラジオ』の編集にも携わられていました。その経験も、今のお仕事に活きているのでしょうか
大友:もちろんです! 『文芸ラジオ』 は文芸学科の教授陣と、有志の学生が編集部員となって発行している文芸誌で、学生のうちからプロの編集者と同じ仕事を経験することができたんです。企画を立てるところからインタビューの依頼、取材や文字起こし※、作家さんとの原稿のやり取りなど……、いろいろな業務を先生や先輩方に教えていただきながら、実践を通じて学びました。
※録音データをもとに、取材内容を文字に起こす作業のこと。
ほかにも、当時所属していた編集コースのゼミ では、いろいろな紙媒体の編集?制作に携わりました。オープンキャンパスで受験生に配布した文芸学科を紹介する冊子は、グラフィックデザイン学科など他学科の力も借りて、充実したものを制作できたのを覚えています。
あとは、山形の地元企業とコラボして顧客向けの冊子を作ったこともありましたね。
『文芸ラジオ』やゼミで制作した冊子は、就活の際に面接の場にも持っていきました。自分が4年間頑張ったことを、本という形のあるものでアピールできたのは大きかったです。

――ほかに文芸学科の授業で学んだことで、今のお仕事で役に立っていることは何かありますか?
大友:一番、ダイレクトに役に立っているのを実感したのは、一年生のときの必修だった石川忠司(いしかわ?ただし)※ 先生の『作品読解』です。週に1冊、先生が指定した小説を読んで、400文字程度でその概要をまとめる。それに対し先生からのフィードバックをいただく……という内容でした。
編集者の仕事の一つに、本のカバーに載せる作品のあらすじや、帯に掲載するキャッチコピーを考える、というものがあります。その作業では『作品読解』の授業で培った、情報を取捨選択するときの考え方が役に立っているのを実感します。先生の作品チョイスが毎回とても素敵で、これまで知らなかった面白い小説をたくさん読むことができたのも良かったです。
※文芸学科教授。文芸評論家。詳しいプロフィールはこちら。
――芸工大の文芸学科では、小説の書き方についても学ぶ授業があります。その経験についてはいかがでしょうか
大友:私は、それこそ編集者の仕事と同じく“1を100にする”のは好きなのですが、作家さんのように“0から1を生み出す”のが、正直に言うと苦手なので……、なかなか大変でした(笑) でも「みなさんはこんなふうに考えて、作品を生み出している」という作家さんの目線を知ることができたので、小説を書くのも編集者として働くために必要な経験でしたね。
また、「面白いストーリーとは、どういう展開なのか」「どうすると面白くなるのか」という感覚も、授業を通じて養われました。これは編集者に必須のスキルなので、今でも小説を書いて良かったなと思います。

――編集者としての目標や、今後の展望はありますか?
大友:ミリオンヒットを狙いたいです! これは、新卒のときからずっと変わらず掲げている目標です。
映像コンテンツ配信サービスであるU-NEXTで働いているので、自分の手がけた作品のドラマ化も目指しています。「あのドラマ、私が原作の編集やってるんだよ」って言いたいですね(笑)
日々の仕事の目標としては、とにかく楽しく仕事をしていたい、仕事をずっと好きでいたいな、と思っています。編集者は、作品を通して読者に“楽しさ”を届ける仕事なので。まず、私自身が楽しく仕事するのが大前提ですよね。そのためにも、ストレスをためすぎたり、無理をしたりせず、自分で「ここまでは頑張ろう」というラインを決めて、日々仕事に向き合っていきたいです。
――最後に、芸工大の文芸学科に興味のある受験生へメッセージをお願いします
大友:編集者や漫画家、小説家を目指す人には、ぜひ芸工大の文芸学科で学んでほしいです。プロの現場で役に立つ知識や考え方を、プロの先生方に教わることができます。
また入学後は、授業やゼミで学ぶのはもちろんなのですが、サークルやバイト、飲み会など、勉強以外の“遊び”にも全力で取り組んでほしいな、と思います。でも、大層なことをしよう……と身構えなくて大丈夫です。大事なのは、4年間という貴重な時間で、いろいろな経験をすることです。逆に“何もしない時期”を作って、ゆったりと過ごすのもいいんじゃないでしょうか。自分のために好きなことを全力で頑張るのも、休むのも、学生のときにしかできないので。
芸工大で編集や執筆のことをたくさん学んで、授業の外でもいろいろな経験をすることで、誰にも負けない編集者や作家になることができるはずです!

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高校時代からマンガ編集者になることを夢見ていた大友さん。オープンキャンパスで文芸学科の教授陣に話を聞いて「こんなに話しやすい先生がいるんだ。ここで学びたい!」と思い、受験を決めたのだそうです。芸工大入学前からの夢を、卒業後に叶えて活躍している姿は輝いて見えました。U-NEXT Comicで大友さんが手がけた作品が配信されるのはこれからとのことで、今後の活躍も楽しみです。
(撮影:永峰拓也、取材:城下透子、入試課?須貝)

東北芸術工科大学 広報担当
TEL:023-627-2246(内線 2246)
E-mail:public@aga.tuad.ac.jp
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