
『呪術廻戦』や『「進撃の巨人」The Final Season』、『チェンソーマン』といった人気作品のアニメーション制作を手掛ける株式会社MAPPA。映像学科の卒業生である佐藤碧(さとう?あおい)さんは、動画?仕上を主とした作画工程を専門に行う仙台スタジオに在籍し、アニメーターとして活躍しています。アニメーション制作において技術以上に重要視されるという、周囲の環境や仲間との関係性。もともと一人で黙々とイラストを描くのが好きだったという佐藤さんは、どのようにしてそのために必要な力を養っていったのでしょう。
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経験を積むことで得られる他工程への理解
はじめに佐藤さんのお仕事について教えてください
佐藤:私はアニメ制作工程の作画のなかで、動画?仕上を担当しています。受け取った原画素材の線を、ニュアンスを崩さないように拾いつつ、必要であれば補整もしながら間の動きをつくっていく中割りという作業になるんですけど、動画を担当している人が色を塗る仕上まで行うのはMAPPAならではのようです。ほとんどの場合、動画と仕上とで担当が分かれているようで、他社の方に話すと結構驚かれますね。



『らんま1/2』 ?高橋留美子?小学館/「らんま1/2」製作委員会
『全修。』 ?全修。/MAPPA
――動画と仕上をセットで担当することは入社前から知っていましたか?
佐藤:私の場合は入社してから知りました。絵を描くことが好きで、とにかく「アニメがやりたい」という感じだったので、アニメをつくる工程だったら原画でも動画でも色塗りでもなんでも楽しんでやれるという思いがありました。いつかは原画もやってみたいと思っていますが、まずは動画で特訓して鍛錬を積んでからですね。

あと、原画って絵の上手い人が描くイメージがあると思うんですけど、動画を担当してみて分かったのは、いかに素材が分かりやすくつくられているかもより重要だということ。後工程として受け取り作業してみることで、強く感じました。画力はもちろんですが、他の工程のことも分かった上でようやく一人前になれると思っているので、動画?仕上を経験できている今があって本当に良かったです。もしも、いつか自分が原画担当になれた時に、どうすれば後工程の人がよりやりやすくなるかがだいぶ分かってきたので、かなり貴重な経験ができていると思います。
――そもそもアニメ業界でお仕事しようと思われたきっかけは?
佐藤:小さい頃から絵を描くのが好きで、芸工大の映像学科に入ったのもそれが理由なんですけど、やっぱりイラストとかアニメ関係の仕事がしたいなってずっと思っていたし、好きなことを活かせる仕事なら自分も楽しみながらスキルアップできていいことずくめだな、と。その中でMAPPAを選んだのは、地元仙台で働けるからというのが大きかったですね。最近のMAPPAは、TVアニメはもちろんですけどYouTubeに上がっているようなミュージックビデオやCMのアニメーションなども担当していて、アニメはアニメでもジャンルが結構広がってきています。その分、新しいことに挑戦できるので楽しいですね。
またいろんなジャンルの作品があるだけに、さっきまで手掛けていたものと画風がガラッと違う絵を描かないといけないこともあったりします。例えば最近放送されたもので言うと、『らんま1/2』はかなりかわいらしい作品なのに対し、『「進撃の巨人」The Final Season』とか『呪術廻戦』みたいにバトルシーンが見せ場のものは格好良さやスタイリッシュさが求められるので、線の数の多さもだいぶ違ってきますし、そういう作品を行き来することはよくありますね。
また私は動画検査という役割も担当しています。例えば担当話数を一つ決めて、その話数の全てのカットを見ていくのですが、動きや作画で間違っている箇所や怪しい箇所がないかなどを重点的に、責任をもってチェックするという仕事をしています。『らんま1/2』はキャラクター一人ひとりが丸い輪郭でかわいくコミカルに描かれるデザインなので、そこが大きく崩れていないかなどもチェックします。数ドット単位でアゴの歪みを直すこともありました。
佐藤さんが動画検査も担当した『らんま1/2』は、2024年10月から12月まで放送。第2期の制作も決定している。
?高橋留美子?小学館/「らんま1/2」製作委員会
――自分が好きだったことを実際に仕事にされた今、楽しい部分?大変な部分をどんなところに感じていますか?
佐藤:楽しい部分ややりがいとしてはやっぱり、テレビで実際に完成されたものが流れているのを見た時ですね。「頑張ったな」って思えて、それがやりがいにつながっています。入社したての時はエンドロールに名前が載っただけでもすごく感慨深かったです。
アニメの仕事って決して一人でできるものではなくて、私が担当している動画?仕上の他にもいろんな工程の人がいて、やっぱり協力し合わないとできないんですよね。正直、私は大学に入る前までコミュニケーションがあまり得意ではなくて、どちらかというと一人で描いてる方が好きな人間で……。でもこうやって実際に会社に入って、長めの作品を一本つくり上げることになった時にちょっと難しそうな絵とかを見ると、一人だとやっぱり不安ゼロというわけにはいかなくて。だからこそ、みんなと協力し合いながらそれぞれ試行錯誤して頑張って描いた絵が映像化されるとすごく感動します。

一方で難しさを感じているのが中割りの作業ですね。手の動きとかであれば自分でその場で確認できるんですけど、動き回るアクションシーンとかファンタジー作品の動きなどはさすがに確認できないので、自分で画力を鍛えて、常に頭の中で動きを考えながら描いています。それこそ人体の構造をある程度理解して、どういう動きになるのか頭の中で分かっていないとなかなか絵にできないところがあるので、4年目になる今もずっと勉強中です。他のアニメ作品を観ることもよくしていますし、退勤して家に帰った後も趣味で絵を描いたり、人体系の美術解剖学の本を買って、それを読みながら描いてみたりしています。
仲間との協力体制から培われた力
――入社以降、特に印象に残っている作品や思い出などありますか?
佐藤:『呪術廻戦』とか『チェンソーマン』は世界的に人気のタイトルなのでやっぱり印象に残っています。昔からジャンプ系の少年マンガが好きだったので、実際につくる側になった時はすごく感動しました。『呪術廻戦』は入社して1年経った頃に関わらせてもらい、あとは『劇場版 呪術廻戦 0』にも参加させてもらって、私にとっては初めての劇場版作品だったのでプレッシャーもありつつドキドキワクワクしながらやった記憶があります。また最近は『イナズマイレブン』のゲーム中のアニメも担当しました。それこそ小さい頃から知っている作品だったので、つくる側になれた喜びを改めて感じることができました。
『イナズマイレブン 英雄たちのヴィクトリーロード』
?LEVEL5 Inc.
それから、今でこそ使い慣れている動画ソフトとかも、入社したての時は触るのが初めてで、使いこなせるようになるまでちょっと時間がかかったり素材の準備が上手くできずに納品まで時間がかかったりと、新人の時はよく苦戦していました。でもそんな時はいつも会社の先輩が見守ってくれて、すごく助けられていたことを思い出します。迷惑をかけてしまっていたと思いますが、先輩社員に助けられて今の自分があると感じますし、2年ぐらい前からは私自身が新人教育をやらせてもらっていて、後輩がちょっと間違ったりした時は、「私もそういうことあったから気持ち分かるよ、大丈夫!」という感じで声かけしながら指導しているところです。
――芸工大の映像学科で学んだことで今、仕事に活きていると感じる力はありますか?
佐藤:まさにコミュニケーション力ですね。私は小さい頃から一人で絵を描いていることが多かったんですけど、大学では個性あるいろんな人たちと一本の作品をつくるためにグループをつくってアポ取りとか機材準備とか役割分担しながらやっていく、っていう経験をたくさんしました。そうやって他の人と協力し合いながら作品をつくる責任というものを感じる機会が多かったことが、今とても仕事に活きていると感じます。またそこを知っている分だけ、自分で手掛けるものの魅力も増していくような気がしています。

――これから挑戦してみたいことはありますか?
佐藤:原画も担当してみたいですし、ゆくゆくはキャラクターデザインとか演出とか、「自分一人でなんでも対応できます」ぐらいにはいろいろやってみたいと思っています。動画検査を担当するようになってから、作画監督さんとか演出さんが「ここの絵はこうした方がいい」という感じで意見交換する場面を目にする機会も多くなって、より一層憧れが強まりました。ぜひバリバリ仕事できるようになりたいです。
―最後に受験生へメッセージをお願いします
佐藤:今ってちょうど進路に悩んでいる時期だったり、なんなら「もう未来のこととか分からない」みたいに思っている人も多いかもしれませんが、好きなことを続けていれば、それを必要としてくれる人は出てきてくれるもの。私も悩んだり苦しんだりしながら絵を描くっていう好きなことをひたすら続けてきたというか、私の場合は昔から言葉で表現するよりも絵で表現する方が楽しかったから続けてきたっていうのが強いんですけど。そしたら私の絵を好きだと言ってくれる人が出てきて、「見てくれている人がいたんだ!」って感じることができて、その結果、実際にこうやって仕事につなげることができました。自分の中では些細なことでも、他の人から見たら「いや、それできるのすごいから」みたいなことって全然あるので、そこを信じることで道が見えてきたり、何かいいことにつながっていくんじゃないかなと思っています。

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「入社するまでは、アニメーターって漠然と“絵を描くだけ”みたいなイメージが強かったんですけど、実際はいろんなセクションがあって、自分たちだけで完成できる仕事ではないということを痛感しました」と佐藤さん。だからこそ日々大切にしている、芸工大での学びをきっかけに得たコミュニケーション能力と、共に働く仲間たちの存在、そして画力向上のための努力。世界に通じる有名作品の制作に携わっているという喜びと自信を胸に、佐藤さんは今日も大好きな絵を描き続けています。
(撮影:布施果歩、取材:渡辺志織、入試課?須貝)

東北芸術工科大学 広報担当
TEL:023-627-2246(内線 2246)
E-mail:public@aga.tuad.ac.jp
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