染物の仕事を日々支える、芸術学部だからこそ得られたデザインの視点/京屋染物店?卒業生 佐久間蒼

インタビュー 2023.03.03|

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経験値を上げる機会に恵まれて

――はじめに、現在のお仕事内容を教えてください

佐久間:普段は、デザイナーとフロント業務を兼務しています。弊社の仕事の流れとしましては、お客様からいただいた手拭いや半纏などのご依頼内容をフロントがデザイナーに伝え、それに合わせてIllustratorでデザインを作ります。そして染めの職人が染色をし、縫製の職人が仕立てを行って、最後に検品?梱包を経て出荷するという一貫生産体制になっています。

私はもともとデザイナーでの採用だったんですが、今はフロントも忙しいということで、それならデザイン業務と流れがつながっているフロント業務も一緒に経験するのが良いのでは、というところから両方担当させてもらうことになりました。製作依頼は基本メールや電話で入るので、例えば半纏なら「どういうデザインにしたいか」「どういう場面で着るか」といったことをお客様にヒアリングして、そこからデザイン業務に入っていく感じですね。半纏に入れるものとして衿文字や腰柄、背中の大紋などありますので、そこにお客様が希望されている柄や文字をデザインして当てはめています。

京屋染物店 佐久間蒼さん お話されている佐久間さん
京屋染物店にてお話を伺った佐久間さん

――入れる柄や文字に決まりのようなものはあるんですか?

佐久間:昔は伝統柄など決まった柄を入れるお客様が多かったのですが、最近は割と皆さん自由ですね。会社のロゴを入れ込みたいというお客様もいらっしゃるので、それぞれご希望に合わせて作っています。半纏の背中部分に入れる大紋については、牡丹の花びらのようにくねくねした形が特徴の「牡丹文字」という伝統のものがありまして、例えば私が担当させていただいた鰻屋さんからは、「蒲焼」という文字を大紋にしてほしいとご依頼いただきました。またその鰻屋さんは一重刺子という厚い生地にとてもこだわりを持ち、その生地だからこそ表現できる風合いも活かしつつ、デザインをご提案させて頂きました。お見せしたらすごく喜んでくださって、「佐久間さんにお願いして良かった」と言っていただいた時は本当に嬉しかったですし、安心しました。

京屋染物店 佐久間蒼さん お話されている佐久間さん

――京屋さんでは、他にもいろんな事業を手がけていらっしゃるとお聞きしました

佐久間:立ち上げて4年ほどになる「en?nichi」という自社ブランドがありまして、オンラインショップなども展開しています。私は試着モデルとして時々お手伝いしているのですが、今後は商品開発にも携われたらなと思っているところです。それから、一関市に笹谷地区という自然がいっぱいのところがあるんですけど、そこに残る古民家を弊社のカフェ兼セレクトショップにする新店舗計画が進行中で、私もカフェメニューの開発を担当させてもらっています。そのため最近はデザインやフロントの仕事と並行しながら、鹿肉カレーの開発も行っているような状況ですね(笑)。

京屋染物店 佐久間蒼さん OTEFUKI
京屋染物店「en?nichi」の「OTEFUKI」
京屋染物店 佐久間蒼さん 自社ブランド製品
店内には様々な自社ブランド製品等が並ぶ

――入社1年ながら、すでに複数の業務を任されているんですね

佐久間:信頼して任せてもらえているという嬉しさもありますし、あとは掛け持ちするのがこの会社のもともとの特徴でもあるんですよね。社員数が10名程度なので、みんな掛け持ちすることが当たり前という感じになっていて、実は「en?nichi」で扱っている商品も染物職人がデザインしていたりします。それぞれいろんな仕事を抱えているからこそ、常にスケジュールをしっかり組んで把握しておくことが求められますし、毎朝のミーティングなんかもすごく大事になってきます。でもお仕事する上で一番大切にしているのは、やっぱりお客様の希望にきちんと沿うというところですね。弊社は一貫生産しているという話をしましたが、フロントがお客様からお聞きした内容が、最後の出荷まできちんと引き継がれていくことがとても重要なんです。もし伝え漏れがあったりするとお客様の思いが届かなくなってしまうので、次の工程に引き継ぐ際は、いつも相手に伝わりやすいよう丁寧に行うことを心がけています。その分、お客様に「お願いして良かった」と言っていただけると涙が出るくらい嬉しくて。その言葉があるから頑張れるというか。あとは半纏を着て撮った写真を送ってくださるお客様も結構いらっしゃるので、それを社内で共有して、みんなで喜びを分かち合ったりしていますね。

インターンで初めて京屋の話を聞いた時、社員の皆さんのやる気ある感じがすごくいいなって思ったんです。内定をいただいた後は、4年生のうちから京屋が定期的に行っている勉強会に参加させてもらって。皆さん本当に優しい方ばかりで、すぐに馴染むことができたのが本当にありがたかったです。そして社員同士の絆が強く、協力し合いながら仕事できるところもこの会社の魅力だと思っています。 ちなみに現在の4代目社長と専務であるその弟さんは、二人とも芸工大の卒業生なんです。この京屋がある辺りは昔からお祭りが盛んで、二人も小さい頃から御神輿を担いでいたようです。ちょうどこのお店の前の道を御神輿が通るんですけど、そういったお祭りに使う手拭いや半纏を作り続けてきた染物屋として、地域の方々に長く親しまれてきたという歴史があるんですよね。

京屋染物店 佐久間蒼さん 店内で業務中の佐久間さん

学生の頃から大切にしてきた、検証を重ねること

――芸工大ではテキスタイルコースを専攻されていましたが、その頃から染色関係のお仕事に興味が?

佐久間:そうですね。大学時代から染めを専門的に研究?制作していたので、そういう場所に就職できたらいいなというのは大学3年の頃からありました。

ただ入学する前は芸術学部ではなく、デザイン工学部への進学を希望していたんです。なのでテキスタイルという言葉自体知らなくて。でも高校の時は美術部だったので作品を作ったりするのがもともと好きでしたし、テキスタイルコースに入ってみたら、同時に他のアートを学べたりデザインの勉強に近い部分もあったりして、「ここにいることでどちらの分野も勉強できる」と気が付きました。芸術学部でものづくりを行うという環境にいたからこそ、そこから見えるデザインの視点を学べたと思いますし、その視点を今この仕事で生かせていると感じます。色の滲みが出ないかなど、常に染めのことを考慮しながらデザインすることができているので。あとは学生時代からIllustratorを使ってポスターのデザインにも取り組んでいたので、そこも今の業務にダイレクトに生かせていると思っています。

京屋染物店 佐久間蒼さん PCに向かう佐久間さん

――特に印象に残っている学びはありますか?

佐久間:当時、制作を行う上で私が大事にしていたのが「検証を重ねる」ことでした。何かやり遂げたい目標を立てたとして、それを達成するためには○ヶ月前から実験を○回していかないといけない、といった逆算のスケジュールが大切になってくるんですね。そのことをテキスタイルの安達大悟(あだち?だいご)先生にすごく教え込まれました。例えば、先日社内でカフェメニューの開発について話し合ったところなんですけど、そういった時にも、「どのお肉を使うか」とか「調味料の配分をどうするか」とか、検証を重ねることを踏まえた上でスケジュールを立てる必要があって。そこをとにかく鍛えられたと感じています。卒業制作も1年くらいかけて作るので、その1年の中でどういうスケジュールにするかをしっかり考えていかないと、納得できるものは作れないですしね。しかも学生時代はまだ「自分が納得できるかどうか」だけでしたけど、仕事をしている今はその先にお客様がいらっしゃるので、「ご希望に沿ったものができているかどうか」を目標に、それを達成するためのスケジュールというのを逆算するようにしています。

――今後、何か挑戦してみたいことなどあれば教えてください

佐久間:先ほどもお話した通り、新店舗や「en?nichi」の商品開発にどんどん関わっていけたらいいなと思っています。それから、働く場所は一関にこだわらなくてもいいのかなという思いがあって。例えば他県に拠点を設けて、私はそこからリモートで会議に参加するといった感じで、あまり場所に捉われずにものづくりしていけたらいいなと。もちろんこの土地に根ざすこともすごく大事で、でも同時に、ここでの活動を他の地域に広めていくことも大事だと思うんですね。なので、まずは東北の中で広めていければと考えているところです。

――最後に、受験生へ向けてメッセージをお願いします

佐久間:高校生は、勉強もしつつ部活もしつつというところですごく忙しいと思うんですね。でも、忙しいながらもどこかに隙間時間を見つけて、自分の興味あるものの先に出向いてほしいなと。そこで新たに人とのつながりができたり、新しい見え方と出会えたりすると思うので。誌面とかインターネットで見て終わるのではなく、実際に足を運んで、自分の目で見て、触って、体感することで得られるものってすごく大きいんですよね。あとは今の世の中いろんな情報が出回っていますから、常にアンテナを張ることで引っ掛かってくるものがたくさんあるんじゃないかなと思います。

京屋染物店 佐久間蒼さん 店内で業務中の佐久間さん

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学生時代、染色の作品づくりはもちろん、それと並行しながらポスター制作にも取り組んでいた佐久間さん。だからこそ養われたアートとデザイン両方の視点が大きな強みとなって、今の仕事を土台から支えていると感じました。ちなみに学生時代は、山形市内に点在するリノベーションされた建物や、ラーメン店といった飲食店をめぐるのが大好きだったそう。また大学近くの居酒屋で4年間アルバイトをしていた時も、現在のお仕事のように新しいメニューをみんなと考え、提案していたんだとか。当時のあらゆる経験が今のお仕事へしっかりとつながっているようです。

(撮影:渡辺然、取材:渡辺志織、入試広報課?土屋)

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東北芸術工科大学 広報担当
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