作家には活動に専念できる場を。地域にはアート体験を通してアイデアを/彫刻家?卒業生 髙田純嗣

インタビュー

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あらゆる仕事に息づく職人としての経験

――髙田さんの現在のお仕事内容を教えてください

――そもそも川口でお仕事されるようになった経緯とは?

髙田:大学院を修了した後、埼玉の美術予備校で2年間、助手のような形で働かせてもらいました。その後、職人として働きたいという思いから鋳物のまちである川口にやって来たんです。鋳造というのは砂を固めて型を作るんですけど、その中でも、手でなければ砂を込められない「手込め」というものに魅力を感じて、鋳物屋の職人として基礎的なところから経験を積んでいきました。そして2年くらい経った頃、大学院卒が少ない環境だったこともあり、社長から管理業務を頼まれるようになって、そこから生産管理や品質管理、さらには営業的なことまでやることになって…(笑)。結局全部の仕事を5~6年くらいやりましたかね。でも会社が閉業することになり、ありがたいことに多くの鋳物屋さんから雇用のお誘いをいただきました。そんな中、よくまちなかで見るような大きい彫刻などを作っている金属造形会社の作品搬入を手伝ったことがきっかけで、建築に絡んだ仕事や金属造形の仕事をさせてもらうようになりました。

彫刻家 髙田純嗣さん お話をされる髙田さん
お話をお伺いした髙田さん

――現在のアプリュスアソシエイツとしてのお仕事は、まさにその金属造形会社での経験が生きているわけですね

髙田:そうですね、彫刻で学んできた鉄の扱い方は、造形する力というかイメージしたものを形にすることだったので曖昧さも良しとされるのですが、例えば柱と柱の間に門扉をおさめるというような図面通りの作り方は学んだことがなかったので、もしそこで金属造形の仕事をしていなかったら、今のように建築関係で独立することはできていなかったと思います。その時に得た技術というものが、本当に今の仕事や自分の作品に応用されていると感じますね。またその頃から、廃校になった川口市内の中学校を利活用した芝園スタジオの管理運営業という、アプリュスとしての仕事も始まっていきました。

――その芝園スタジオが移転して、現在の芝スタジオになったとお聞きしています。このスタジオでは、美大を卒業した方々を対象にアトリエの貸し出しを行っているそうですね

もともとは僕自身がアプリュスの利用者で、休みの日は荒川区にあるスタジオで作品を制作して、平日は鋳物屋で働くという生活をしていました。芸大?美大を卒業しても、チャンスに恵まれなかったり良い制作場所に巡り会えなかったり、仕事が忙しすぎるという理由で活動をやめていく方が多く、作家の置かれる環境を良くしていきたいと考えていたアプリュスの代表が、「またアートを始められるきっかけの場にしてもらえたら」との思いを込めたようです。僕もその考えに共感して役員となり、この仕事をしています。

彫刻家 髙田純嗣さん アプリュス芝スタジオの様子
紡績工場をリノベーションして作られたアプリュス芝スタジオの様子
彫刻家 髙田純嗣さん アプリュス芝スタジオの様子

――アートスタジオを運営する上でいつも大切にしていることは?

髙田:アーティストの活動拠点となることに理解をしてくれた方々、例えば、廃校利用の際には行政、元紡績工場であるこの芝スタジオであれば大家さん(帝國絲業株式会社)や近隣住民のみなさん。そうした方たちへの配慮を大切にしています。自分たちのやりたいことだけを考えて活動するのではなく、場所を提供していただく方たちがどのような考えを持ち、何を求めているのか。また、地域に足りていないものは何か。私たちができることを考え、提供し続けていくことがとても大事だと思っています。その一つが、地域の子どもたちへ向けたワークショップだったり、素材遊びができる空間づくりであったり。こうした活動を通して地域の方々と顔見知りになれることはもちろんですが、お互いの考え方も少しずつ分かるようになってきて、そこから人とのつながりが生まれてくるんですよね。そんなふうにコミュニケーションの場を提供することは、目に見えない価値を生み出し、信頼関係を作ることにつながっていくと考えています。

――ちなみに、髙田さんご自身のお仕事で特に印象に残っているものがあれば教えてください

髙田:最近の仕事になりますが、芸工大で非常勤講師を務めている建築家?鍋野友哉さんの自邸の金属造形を担当させてもらいました。以前から、鍋野さんが設計した建築に関わらせていただいてるのですが、鍋野さんは「手仕事の職人と話しながらアイディアを出して課題をクリアしていくことが面白い」と言ってくれる方で、一緒に仕事していると気づかされることが多く、作りながら考える面白さを感じられるんですよね。そして結果できあがったものを見て「おぉ!」という感動があったり。そういう手仕事の喜びに共感しながら、よりハイレベルなことに挑戦してゆく仕事に関われてきたことは、僕にとってすごく大きいですね。

彫刻家 髙田純嗣さん スタジオで制作する髙田さん
髙田さん自身もスタジオ内で制作を行う

彫刻作家である指導陣の感性を目の前にして

――芸工大の彫刻コースを選んだきっかけは?

髙田:僕は北海道根室市という田舎の出身なんですけど、そこから札幌の予備校に通っていて。その時に、都会の大学は物も人も多くて落ち着かないと感じて、それで芸工大を選ぶことにしました。また僕の実家は硝子屋で、まさに手仕事の建築業なんですね。それで建築に関わる美術の仕事を何かやりたいなと思っていた時に、美術史の本でシスティーナ礼拝堂のミケランジェロの天井画を見て、すごく感動して。そしたらミケランジェロって彫刻家なんですよね。なのでまずは僕も彫刻を、というシンプルな動機で彫刻コースを選びました(笑)。

――当時の学びの中で印象に残っているものを教えてください

髙田:まずは、1年生の時に受けた峯田義郎先生の自然物を描く授業ですね。大学の裏にある「悠創の丘」に学生たちが放たれて、それぞれ川を見たり、林を散策したり、落葉を拾ったりしながら気に入ったものを形にするというものだったんですけど、それが一番楽しくて。こういうところから作品になるんだっていうのを、アカデミックに行き過ぎない手法で学べたことがすごく良かったなって。実は今でもその原理を応用していて、あえてモチーフを決めず、身近にある自然や何気なくある物を見て観察しながら作品を作ることが多いですね。

それから、大学院では保田井智之先生のゼミに入りました。今は、どちらかと言うとコンセプトに基づいた表現を求められるところがあるんですけど、僕は学生時代コンセプト重視の考え方に馴染めなかったこともあり、保田井先生は素材の可能性や自分の造形力を信じて突き詰めていくような作家でしたので、造形と表現力で納得させられる彫刻作品に当時から憧れていました。

そしてもう一つ、海崎三郎先生が非常勤でいらっしゃった頃に神戸の文化施設で行われた、「NEW HEAVY展」という大規模な彫刻展が印象に残っています。当時は大学院の1年で、搬入の手伝いをさせてもらったんですけど、企画運営も搬入搬出も広報も、教授を務めるような作家たち自らが関わっていて、その熱量に驚きました。学芸員が準備をしてくれるとか、搬入業者が設営するものだと思っていたのと、海崎先生は僕が本当に尊敬している鉄の作家でもあったので、展示に関わる物事を、あえて自分たちで創り上げてゆく姿勢に心を動かされました。とにかく芸工大には素晴らしい先生が多いと感じていました。

彫刻家 髙田純嗣さん お話をされる髙田さん

――今後の展開について思い描いていることはありますか?

髙田:この芝スタジオがある辺りは空き家がたくさんあるんですけど、そういったところを地域の不動産業の方と一緒に改装して、作家さんが住居兼アトリエのような形で活用していけたら面白いんじゃないかなと考えているところです。今はスタジオ運営や依頼を頂いてる仕事で手一杯で、しばらく自身の作品を作ってこなかったので、落ち着いたら彫刻作品の制作をメインにやって行こうかなと思っています。これまではオーダーを受けて建築におさめていく仕事が多かったので、もう少し自分側から発信していきたいですね。

――それでは最後に受験生へメッセージをお願いします

髙田:芸工大は、何か好きなものを見つけてとことんやってみるのにとても良い場所だと思います。その上で一個のものに固執する必要は全然なくて、昔は大学っていうと、例えばデザインの学科に入ったらデザイナーを目指さないといけない、みたいな固定観念がありましたけど、今はそういう時代ではないし、その学科に入ってからの経験をどう生かすかは人それぞれ。ですから、まずは楽しいことをどんどんやっていってほしいですね。一見無駄なように思えることでも、自分の気持ちが動くことには、その先の出来事にも繋がっていく大切なこともあります。そう考えると、無駄なことなんてほとんどないんですよね。そして何より芸工大は、教授も非常勤の先生も現役で活躍しているプロの作家です。ぜひそんな先生方を信じて入ってきてほしいと思います。

彫刻家 髙田純嗣さん お話をされる髙田さん
スタジオ前にて 髙田さん

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信頼できる指導陣と出会い、社会に出た後もあらゆる経験を積み重ね、そのすべてを現在の建築業やスタジオの運営、彫刻家としての活動の支えにしてきた髙田さん。「世の中では利益のみを追求する方たちも多いようですが、私たちが関わる事業においては、相手のことを考えるという基本的なことを大切に、長期的な信頼関係を作っていくことを心がけています」と話すその言葉通り、地域住民やアトリエを利用する人それぞれが持つ思いを尊重しながら、共につながり歩んでいこうという髙田さんの姿勢がとても印象に残りました。

(撮影:永峰拓也、取材:渡辺志織、入試広報課?土屋)

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東北芸術工科大学 広報担当
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