
ソニーミュージックグループ傘下のアニメーション制作会社?株式会社A-1 PicturesでCGクリエイターとして活躍している髙橋俊光(たかはし?としみつ)さん。『劇場版 ソードアート?オンライン -プログレッシブ- 冥き夕闇のスケルツォ』『NieR:Automata Ver1.1a』をはじめ、さまざまな作品のCGに命を吹き込んでいます。アニメファンなら誰もが名前を知るタイトルに多数携わっている髙橋さんに、現在のお仕事の魅力や、今につながる大学時代の経験をお話しいただきました。
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A-1 PicturesのCGクリエイターだからこそ得られる、
色とりどりの学びの日々
――現在のお仕事の内容を教えてください
髙橋:僕は、アニメーションのCGを手がけるセクションのなかで、“CGアニメーター”とよばれる役割を担っています。“モデラー”や“リガー”といった方々が、オブジェクトというものを作成するのですが、それを受け取って画面の上で動かす作業をするのがCGアニメーターの仕事です。たとえばキャラクターや武器、ロボットの動きをつけたり、車を動かしたり……といったことをメインでやっていますね。



――「CG」と、ひと口に言ってもいろいろな役割があるんですね。そのなかでも髙橋さんがCGアニメーターの道を選んだのは、どういった理由だったのでしょうか
髙橋:元々、入社当時はモデラー志望だったんです。芸工大在学中から、ひたすらロボットなどのメカを作っていました。でも入社後にCGアニメーターの楽しさを現場で教えてもらって、そこで方向転換しました。
A-1 Picturesに入社して最初の1年間で全ての工程を経験させてもらいました。それで初めてCGアニメーターの仕事をやってみて、「アニメーションって、こんなに楽しいんだ!」ということを知りました。
僕自身の好みの面でも、実はモデラーよりもCGアニメーターのほうが、相性が良かったんですよね。CGモデラーは、デザイナーの方が考えられたキャラクターやメカなどのデザインを、そのままCGに起こすのが仕事なので、職人的な側面が強いです。対してCGアニメーターの仕事では、CGに魅力的な動きをつけるにあたって、作業者個々人の感性にある程度委ねられるところがあります。学生時代からずっと「自分のアイディアを発揮できるような仕事がしたい」と思っていたので、そこでいうとCGアニメーターがまさに当てはまる仕事だったんです。
――今のお仕事を始めて、特に印象に残っているエピソードはありますか?
髙橋:『劇場版 ソードアート?オンライン -プログレッシブ- 冥き夕闇のスケルツォ』という作品で、僕が担当させていただいたシーンは思い入れが強く、印象に残っています。クライマックスの戦闘で、ミトというキャラクターが巨大なボスモンスターに鎖の武器を投げて攻撃するシーンの、一連の動きですね。結構時間をかけて作ったので、思い入れがあります。
『ソードアート?オンライン』自体は、僕が学生のときにTVシリーズが放送されていて、当時はいち視聴者として楽しんでいました。そんな作品に、クライマックスという大事なシーンで携わることができてうれしかったです。友人からも「あそこの動きを担当したんだ! すごいね!」と褒めてもらえました(笑)
――このお仕事でやりがいを感じるのは、どんなときですか?
髙橋:CGアニメーターというより、A-1 Picturesならではだと思うのですが、いろいろなジャンルの作品を経験できるのは楽しくて、やりがいを感じます。
就活の際にA-1 Picturesを選んだ理由でもあるのですが、この会社はアクションや日常、アイドルものなど、とにかく幅広いジャンルを手がけています。なのでCGアニメーターという同じ仕事をずっと続けていても、飽きることがありません。

作品ごとやジャンルごとに意識すべき点が異なるため、とても勉強になります。たとえば、SF系の作品に登場するメカであれば、硬さや重さの表現が重要です。ずっしりとした重量感があり、スムーズに動くというよりは少しぎこちなく、ガチャガチャとした雰囲気が必要です。
アイドルもののキャラクターなんかは逆で、「いかに自然な人間の動きになるか?」を模索しています。でも同時に、すべての動きを現実と同じにすることが正解とも限りません。アイドルものは特にキャラクターの見た目が重要ですから、たとえば前髪が顔にかかると、キャラクターの印象が意図しないかたちで変わる……いわゆる“キャラ崩れ”が起きてしまいます。なので、キャラ崩れが起きない範囲で自然な動きをつける必要があるんです。
……こんなふうに、2つ例に挙げただけでも意識することが全然違うのが面白いです。そして、監督やディレクターによっても「演出でここを意識してほしい」というポイントがまた異なります。常に新しいことを勉強しながら仕事をできるのが、A-1 PicturesでのCGアニメーターのやりがいですね。
――同じ業界のクリエイターで、髙橋さんが目標にしている方はいますか?
髙橋:手描きのアニメーターさんになるのですが、リアル系の作画をやっている方が好きで、よく意識しています。お名前を挙げさせていただくと、スタジオジブリの井上俊之さんや『NARUTO -ナルト-』シリーズで有名な松本憲生さん、数々のロボットアニメに携わっている沖浦啓之さんなどです。
リアル系の手描きアニメーターさん達の作画に共通しているのは、ものが動くときの重力のかかり方が完璧で、見ていて気持ちの良いアニメーションになっているところなんですよね。僕自身も、そんな動きに到達できるようになりたいな……と思って、日々勉強させていただいています。

切磋琢磨できる環境で、かけがえのない仲間と過ごした学生時代
――芸工大の映像学科を選んだ理由を教えてください
髙橋:オープンキャンパスで、興味を惹かれたからです。昔から絵を描くのが好きでしたし、姉が芸工大の建築?環境デザイン学科 に通っていたのもあって、芸工大への興味はありました。それで友達とオープンキャンパスに行ったのですが、そこで映像学科の存在を知って、「え、そもそも映像って、自分でも作れるの?」という衝撃を受けたんですよね。アニメなど何かしらの番組にしろ、CMにしろ、これまでは“テレビを見る側”でしかなかったのが、“作る側”に行く道もあるんだ……!という。そして実写映画やドキュメンタリー、アニメーションなど、映像のなかでもいろいろな分野を学べる点も魅力的だったので、芸工大の映像学科を選びました。

――現在のお仕事にもなっているCGについては、入学当初はまだ本格的に興味があったわけではなかったのでしょうか
髙橋:そうですね。当初は本当にざっくりと「CMとか、撮れるようになってみたいな」という感じでした。アニメ自体は見る側としてずっと好きだったのですが、「絵がうまい人しかアニメーターになれないから、自分にはできないかな」と思っていたんです。でも、CGという分野であれば絵がうまくなくてもアニメに携われる可能性がある、ということを入学後に知って、そこで興味が出てきました。実際にモデリングからチャレンジしてみたところ、ちまちまと細かな作業を繰り返して作り上げていく感じが自分の好みとも合っていて。「向いているかも」と思ったので、大学での専攻も、就活でもCGの道を選びました。
――芸工大で過ごした日々のなかで、印象に残っていることはなんですか?
髙橋:特定の出来事が……というよりは、仲間と過ごした日々そのものが印象に残っていますね。学生一人ひとりが、創作活動に対して各々の考えやプライドをもっていて。大学内にいれば、あっちに行ってもこっちに行ってもクリエイターがいる、という環境ですよね。そんな環境で4年間を過ごせるってすごく幸せなことだし、あのとき出会った仲間たちは得難い存在だな、と心から思います。友達と話していると、制作に関してもそれ以外のことでも「あぁ、そういう考え方もあるんだ」「それって面白いな」と勉強になることがたくさんありました。そんな会話を通じて自分自身の考えがアップデートされていく感覚があったのも楽しかったですね。ゼミの仲間とは、CGの技術についての情報交換を行って、お互いの作品を良くするために助け合った思い出もあります。卒業後に同じアニメ業界に進んだ同級生も何人かいて、彼らとは今でも連絡を取り合っています。
髙橋さんが参加した作品『NieR:Automata Ver1.1a』
――CGクリエイターとしての今後の展望や目標を教えてください
髙橋:CGディレクターの仕事をやってみたいです!今はまだ経験したことがないのですが、今後何かの作品で任せていただけることがあったら、ぜひ担当してみたいですね。「自分の作品を持ちたい」という想いはもちろんありますし、「これは髙橋にしかできなかったね」「髙橋に任せてよかった」と言っていただけるような仕事ができたらいいな、と思います。そのためにも、これからも日々勉強しながらひたすら経験を積んで、自分の表現を磨いていきたいです。
――最後に、この記事を読んでいる受験生へ、メッセージをお願いします!
髙橋:芸工大に興味をもっているということは、少なからず「好きなことを仕事にしたい」という想いがあるんだと思います。そういった気持ちのある方に伝えたいのは、「ぜひ、前向きな気持ちでチャレンジしてほしい!」ということです。
世間では、よく「好きなことを仕事にすると、つらくなってしまうからやめたほうがいい」と言われますよね。特にアニメ業界なんかは、そのような面でネガティブな印象を抱かれがちです。でも僕は逆で、“好きなことだからこそ、この仕事を続けられている”んです。本当にありがたいことに、たくさんのビッグコンテンツに関わらせていただいて、毎日楽しい気持ちで働いています。もちろん、今の仕事を選んで後悔したことなどありません。
それにA-1 PicturesのCGクリエイターは、実は世間一般のアニメ業界のイメージほど激務ではないんですよ。たまにある忙しいときは残業することもありますが、忙しくない時期は一般的な会社さんと変わらないぐらいの勤務時間で退勤できています。まだアニメ会社ごとに多少の違いはありますが、業界全体で労働環境を改善する動きもあるようです。なので「好きなことを仕事にしても、どうせつらくなってしまうんだろうな」と諦めずに、自分の興味を信じてチャレンジしてみてください!

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芸工大の映像学科では、アニメーションやドキュメンタリーなど、さまざまな分野の映像制作を学びます。髙橋さんの今のお仕事では、たとえば構図を考えるときに「実写だと、こんな感じになったな」と思い出すなど、当時の経験も活きているのだそうです。いつか芸工大での経験とご自身の努力が形となり、CGディレクターとして髙橋さんのお名前を見る日が来るかもしれません。
(撮影:山口 学、取材:城下透子、入試課?須貝)

東北芸術工科大学 広報担当
TEL:023-627-2246(内線 2246)
E-mail:public@aga.tuad.ac.jp
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