美術館大学構想シンポジウムvol.1

ことばの柱をたてる|美術館大学ことはじめ

「美術館大学構想の一歩」 酒井忠康

まるでモーゼの十戒でも想起せよと言わんばかりの、この「ことばの柱をたてる」という形容は、ちょっと動じ難い印象をあたえるかもしれない。しかし、私たちに今後展望できる何かがあるのかという問いに、いささかでもこころを動かし、現状をみつめなおして変えていく勇気とエネルギーをもらえるなら、まず、このことばのもつ豊かさの確認と、その可能性を知ることが必要なのではないだろうか。

私たちの考え方や感じ方は、いつの間にか固い枠組みにしばられて、すっかり窮屈になっている。既存の言語空間のなかに行儀よくおさまる無難さの選択か、あるいは無茶苦茶な論法をもてあそんで、ときに粋がる安直さか居直りのどちらかになっている。そんな現状をとらえて危惧する良心のひとが少なからずいるのは知れるが、今回、お招きする2人は危惧する良心のひとにはちがいないけれども、そうした窮屈になっている思考の地平を拓いて、何とも爽やかな風を呼び起こし、破格の言語空間のなかを遊んでいるその道の達人である。新しい事象(=美術館大学構想)に対応する創造的なちからを授けてほしいと思っている。
[美術評論家/世田谷美術館館長]


「研究・実践への多彩なアプローチ〈美術館大学構想シンポジウム〉」
大学広報誌〈Fontaine no.43〉より抜粋

キャンパス全体を地域ミュージアムへと変貌させる「美術館大学構想」の本格始動を記念し、10月29日にシンポジウム『ことばの柱をたてる|美術館大学ことはじめ』を開催しました。パネリストに、京都造形芸術大学学長の芳賀徹氏と、建築史家・建築家の藤森照信氏を迎え、本学大学院教授の世田谷美術館館長・酒井忠康氏がモデレーターを務めます。
「美術館大学構想は、小さくまとまってほしくない。場合によっては、壮大な失敗に終わってもいい。何よりも私たちが思考を深め、経験を積む機会としたい。今日は大いに夢見るというか、吠えまくりましょう」。酒井教授はこう、シンポジウムの口火を切りました。会場の「こども芸術教育研究センターこども劇場」には、学生や周辺地域の方々など約160名の来場があり、聴衆にぐるりと囲まれた演壇には、3氏の“語り”が今後の美術館大学構想の未来を支える“大黒柱”となることを願って、オリーブの鉢が置かれていました。

シンポジウムの構成を担当した宮本学芸員は「円座の利点は、話に聞き入る互いの顔が眺められ、議題への共有感が高まること。一方通行の講義にはしたくなかった」と言います。その効果もあり、親密なムードの中で展開するパネラーの語らいに、会場はどっと笑いの連続。「現代日本の美術評論、比較文化、建築史を代表する論客の放談は、ユーモアと鋭い批評が渾然一体となり、世代を超えて、私たちに知的好奇心の萌芽を与えてくれた」と宮本学芸員。学生たちも、パネラーの底知れぬ学識や大胆な発想に圧倒されていたようだと言います。

美術品の収集に重点を置いた近代型美術館では、時代の変化や地域社会のニーズに呼応することが難しくなっています。そして大学を地域に向けてより開かれた場としていくために、芳賀氏は、「私たちの人生にとって真に必要な美術館とは何かを問い続ける、語りあかす、この場がすでに美術館大学」と発言。「大学」の本分と「美術館」の目指すべき未来が重なりました。藤森氏は、建築作品の制作秘話や、親交のある芸術家の人間的魅力について語り「前衛精神、良い意味での怪しさ、これを肯定できなくなったら、大学も美術館も実利に結びつく理数系の探求に吸収されてしまう。自由で気骨ある芸術魂を育成してもらいたい」と、会の最後に本学への期待を述べ、これから展開される美術館大学の未来を語らう3時間は幕を閉じました。
(2006.1.10発行)

芳賀徹 Toru Haga

藤森照信 Terunobu Fujimori

酒井忠康 Tadayasu Sakai

上:芳賀徹 Toru Haga
中:藤森照信 Terunobu Fujimori
下:酒井忠康 Tadayasu Sakai

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